直木賞作家・朝井リョウさんによるエッセイシリーズ“ゆとり三部作”。
『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』『そして誰もゆとらなくなった』から構成される本シリーズは「頭を空っぽにして読めるエッセイ」として話題を呼び、累計30万部を突破しています。
『そして誰もゆとらなくなった』文庫版の発売を記念して、朝井さんが「読み始めに最適な一本」を各巻からそれぞれセレクトして公開します。
第2弾『風と共にゆとりぬ』からは、「初めてのホームステイ」が選ばれました。朝井さんがウェブ用に加筆修正した「ウェブ転載版」の前編です。以下、朝井さんのコメントです。
「Web公開に不適切だと判断した箇所はカットしております。昔の文章を読み返す作業、本当に怖いです。」
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カナダに派遣される中学生
私の地元の垂井町は、1996年、カナダにあるカルガリー市と姉妹都市となった。それ以来異文化交流も盛んに行われるようになったというが、一体カルガリー市はどんなメリットを感じ取って我がふるさと・垂井町と姉妹になる運命を選択したのだろうか。Wikipediaによるとカルガリー市とは「カナダ西部のアルバータ州にある都市である。同州最大の都市かつ同国有数の世界都市」だという。世界都市のカルガリーと、狭い盆地の垂井町。なんだか、コンビ間格差を売りにした「姉妹都市」という名前の漫才師みたいだ。たとえ腹違いの姉妹だといわれたところで納得がいかない。
そんな謎に満ちた姉・カルガリー市に、妹である垂井町から、毎年中学生が派遣される。垂井町に二つある中学校から計十数名が派遣メンバーとして選抜されるのだが、当時中学二年生、もちろん海外になんて行ったことのない朝井少年はボンヤリと「自分もカルガリーに行きたいなりー」なんてクソつまらない韻の踏み方をしていた。中学二年生の冬、そのメンバーを選抜する試験があるというので、私は、同じくボンヤリと海外渡航への憧れを抱く友人たちと連れ立って受験してみることにした。そして、金色のポニーテールをブンブンと振り回す姿が恐れられていたALT(外国人教師)による英語の面接を受けた結果、なぜか試験に合格してしまった私は、中学二年生の3月、約2週間もの間カナダのカルガリー市に赴くことになったのである。どこかへ派遣=小野妹子という謎の早合点をした私は、同じくメンバーに選ばれた同級生たちを見て頭の中で(姉妹都市に行く妹子軍団……)と女偏に塗れた思考を繰り広げていた。
