宮城谷昌光さんといえば『夏姫春秋』で直木賞を受賞し、『太公望』『三国志』『孔丘』など数々の名作を世に出してきた中国歴史小説の大家。そんな宮城谷さんの異色作が『歴史の活力』(文春文庫)だ。経営者や組織のリーダーを人相、言動などさまざまな観点から分析した宮城谷さんによる唯一のビジネス本でもある。宮城谷さんによれば、中国の歴史や古典には、日本を代表する企業の創業者たちの言行と不思議なほど類似例があり、中国史を知ることはすなわち日本を知ることだという。
そんな宮城谷さんの作品に「人生のどん底で出会った」と語るのが、シンガーソングライターにして俳優としても活躍する吉川晃司さん。映画『キングダム』で趙の総大将を演じて話題になり、還暦を前に奥田民生さんと「Ooochie Koochie」を結成した吉川さんが、宮城谷さんとの秘話や自らの現在地を語る。
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――救われる。
湿った地下のスタジオで読みながら、何度となく呟きました。
三十三歳のとき、僕は人生の窮地にありました。いろんなトラブルが重なり、若手数人を引き連れて、独立して新たに会社を立ち上げざるをえなくなったのです。文字通り、徒手空拳、ゼロ、いや、マイナスからの出発でした。
若手スタッフを前に、「利益が出るまで、俺はこのスタジオで寝泊まりする」と見得を切り、そこから十年余りの地下生活がスタートしました。しかし、それまで一人のシンガーとして突っ張って生きてきた人間には、助言を請うべき師匠も先輩もいません。おまけに、人間不信に陥っていました。
そこで、すがったのが書物でした。日本の歴史小説を手はじめに、『三国志』を経て、中国史の世界にのめりこんでいき、出会ったのが、我が「人生の師」、宮城谷昌光さんの著作でした。そこに描かれている中国古代の人間のなんと豊かなことか。男たち――自分の美学や志を全うしつつも、世の現実との軋轢に苛まれている――が吐く台詞が、一々絶句してしまうくらい素敵でした。何度も何度も繰り返し読みました。

