n-buna 僕自身が文学に支えられて生きてきたので、今の子たちにヨルシカをきっかけに古典に触れてもらえるよう、その入り口にふさわしいと思うものを中心にオマージュしました。
小川 なかでも、「さよならモルテン」という曲に付された「ガチョウのモルテンは少年を遠くへ運ぶ。いつか物語が終わってしまうことを、あの日の私は知らない振りをしている」という言葉がすごく好きでした。普通なら、知らない、の一言ですんでしまうのに、振りをしている、というところまで掘り下げている点に、思いが深く刻まれているのを感じます。
n-buna 『ニルスのふしぎな旅』には子どもの頃の思い入れがありますね。今の僕は結末の言葉が楽しみで仕方がないんですが、子どもの頃って物語が終わるのが嫌じゃありませんでした?
小川 そうそう、だから、できるだけ厚い本を読もうって。
n-buna ミヒャエル・エンデとか、長くて嬉しいなって。
詩的な言葉は「心が沸き立つ」
小川 萩原朔太郎も相当お好きなんですよね?
n-buna 朔太郎をきっかけにして、日本近代詩が好きですね。文語がだんだん崩れて口語的な自由詩が増えてきて、でも日本語として格調高い部分も残っていて。やはり、日常会話の言葉ではなく、そういう詩的な言葉で語りかけられたほうが、心が沸き立つじゃないですか。
小川 そうですね。小説の中でも、日常会話を描写するのはめちゃくちゃ難しいんですよ。ああ、もしかしたら、私が家族を書くのが苦手なのは、そこに原因があるのかもしれませんね。家族ってくだらないことしか喋りませんから(笑)、それはつまり幸せということですけど。
n-buna 確かに、家族はあまりお書きになりませんが、他人同士のつながりが家族レベルまでには密ではないのに美しい、でもそれは一瞬で、やがて別れが訪れる、という作品が多いように思います。
(全文は発売中の「文學界」8月号でお読みいただけます)
