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ヒーローなんかじゃない『ハン・ソロ』 小物アウトローの「末路」を考える

サブカルスナイパー・小石輝の「サバイバルのための教養」

2018/07/07

genre : エンタメ, 映画

今回のハン・ソロにはリアリティーがありすぎる

「なかなかの褒めっぷりですねえ。だけど、ハン・マニアの小石さんとしては、何か言いたいこともあるんじゃないですか?」

小石「ギクッ! 君もなかなか鋭いなあ。この映画はロン・ハワード監督の言う通り、『スター・ウォーズ銀河における本当の意味での最初のキャラクター研究』であり、ハンの人物像を徹底的に掘り下げている。それはすごくうまくいっていると思うんやけど、そこが逆にひっかかるところなんや」

「どういうことですか?」

小石「旧三部作におけるハンって、けっこう行動に一貫性がないやろ。自分を追ってきた賞金稼ぎを、相手が銃を抜く前に平然と射殺するなど、冷酷無情な男かと思えば、命がけでルークやレイアを救ったりもする。俺はそういう『いきあたりばったりで、その時々の自分の感情に忠実』というところが、ハンの一番の魅力やと思っていたんや。

 そやけど今回の映画は、ハンが旧三部作でなぜああいう一見矛盾した行動をとったのか、まるで推理小説の謎解きでもするかのように明快に示してみせる。『敵に情けをみせないのは、こういうことがあったからか』とか『過去にこういう恋愛をしていたからこそ、レイアにも惚れたんや』とか、いちいちちゃんと理由づけしてくれるんや。しかも、それが上っ面だけの話じゃなくて、生き生きした登場人物たちとの絡みの中で描かれるから、けっこうリアリティーがあるわけ」

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「それって『人物がしっかりと描けている』ということだから、むしろ褒めるべき点なのでは?」

小石「普通のリアルな映画やったらな。そやけど、『スター・ウォーズ』って元々、ルーカスが古今東西の神話や昔話に共通するパターンを踏襲して作り上げた『現代人のためのおとぎ話』なんや。あんまりキャラクターの造形を明確にしすぎると、作品世界との『食い合わせ』が悪くなってしまう。あまりにもリアルな登場人物が出てくるおとぎ話って、なんか気持ち悪いやろ?

 ちょっと夢見心地で、あいまいで、ええ加減な感じ。それこそが『スター・ウォーズ』世界の最大の魅力や。作品世界に余白がいっぱいあるから、観る側が自分自身のイメージを投影させて『私の、俺のスター・ウォーズ』を作り上げることができる。心理療法家の河合隼雄も言っているとおり、おとぎ話や神話の魅力ってそういうもんやし、だからこそ人々の心を癒やしたり、成長させたりできるんやと思う」

「そこ、なんとなく分かるなあ。最近のスター・ウォーズ映画って、どんどん作品世界の設定を細かくリアルにしていくでしょ。『そんなことして何になるの?』とか『ついていけないなあ』とか、つい思っちゃうんですよね。『スター・ウォーズ』は、『ダース・ヴェイダーかっこいい!』とか『イウォークかわいい!』で十分な気がします」

小石「『スター・ウォーズ』作品を量産しているディズニーも、そこらへんはちょっと考え直した方がええかもしれんね。で、話を映画『ハン・ソロ』に戻すと、『スター・ウォーズのアナザー・ストーリー』であると同時に、『アウトロー映画』としてもようできたこの作品の新しい楽しみ方を、俺は提案したい。それはこの映画を『ルパン三世の本当の最終回』へと脳内変換してしまうことや。しかも、女たらしの三枚目ルパンじゃなくて、1971年に放映された最初のテレビシリーズや『カリオストロの城』で描かれた、『ハードボイルドでかっこいいルパン』の最期を描いた作品としてな」