「言い方に問題があるかもしれないが、早く大阪拘置所のような環境にいたら、こんな事件を起こさなかった」

 さらには、遺族が死刑を求めた点について、「その通りで、それで償うべきだと思っている」と受け入れる意思も示した。

 公判は22回の期日をもって結審した。青葉は増田啓祐裁判長に「言っておきたいことはありますか」と促され、証言台で口を開いた。

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「質問に答えるとか、自分でできる範囲でちゃんとやってきたので、この場において付け加えて話すことはございません。そうとだけ言っておきます。それだけです」。よどみなく答えた。

「最後に言いたいことはありますか」との問いに、青葉は10秒ほど考え込み…

 年が変わり、24年1月25日。

 ついに迎えた判決の日の朝、空は青く澄み渡っていた。

 京都地裁には初公判の時のように、多数の報道関係者が集まり、緊張感が漂っていた。わずかな席数の傍聴券を求めて多くの人が列を作り、近くの京都御苑の広場で抽選用の整理券が配布された。

 午前10時30分、増田裁判長が開廷を告げる。入廷していた青葉はうなずき、背筋を伸ばして深くおじぎした。若干の手続きを済ませた後、裁判長が青葉に「最後に言いたいことはありますか」と問うた。

 青葉は沈黙し、10秒ほど考え込んだ後に言葉を発した。「ありません」。裁判長はいったん休廷を告げた。

 午前11時、裁判が再開された。裁判長が「判決を宣告しますので、被告人は証言台の前へ」と促す。青葉は車いすを押され、顔を下に向けたまま硬い表情で証言台の前に移動した。

 名前を確認された青葉は、小さな声で「間違いありません」と答えた。

 裁判長は、建造物侵入、現住建造物等放火、殺人、殺人未遂、銃刀法違反の5つの罪名を読み上げた。

 そして、「主文は後で告げます。有罪判決ですが、主文は最後に言います」と述べた。

爆発火災があった京アニのスタジオ ©時事通信社

裁判長が「被告人を死刑に処する」と宣告

 昼の休廷を挟んで1時間半あまり、裁判長は判決理由を読み上げた。

 裁判長は京アニが「小説のアイデアの盗用などできるはずもない」と、青葉が頑なに「パクられた」と主張した点を一蹴した。一方、青葉は精神疾患の一種の「妄想性障害」だったと判断した。京アニへ恨みを募らせ、攻撃する動機が形作られるのに妄想が作用した、とまでは認定した。

 しかし、犯行直前に逡巡していることから、妄想は善悪を区別する能力や行動を制御する能力に影響を与えておらず、刑事責任能力は完全にあったとした。つまり、「妄想ではなく、被告人自身の意思で、放火殺人を選択した」と結論付けた。

 そして、午後1時40分、宣告の瞬間が訪れた。

 裁判長が「主文を告げます。被告人、よろしいですか」と述べた。青葉はうなずくように顔を下に向けた。

「被告人を死刑に処する」

 死刑が宣告された瞬間、青葉は微動だにしなかった。

 裁判長が主文をもう一度繰り返した。車いすに座っていた青葉は黙ったまま、深くおじぎし、法廷から静かに姿を消した。

 143日間にわたった一審が終わった。

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