2019年7月18日に起きた京都アニメーション第1スタジオへの放火。36人もの尊い命が奪われ、32人が重軽傷を負った。「史上最悪の放火殺人事件」とも言われる悲惨極まりない事件は、なぜ起きたのか。事件を防ぐ手立てはなかったのか。死刑判決を受けた青葉真司死刑囚とは、どんな人物なのか——。

 ここでは、遺族に寄り添いながら“京アニ事件”を6年間取材し続けた京都新聞取材班の著書『自分は「底辺の人間」です 京都アニメーション放火殺人事件』(講談社)より一部を抜粋して紹介する。(全3回の1回目/2回目に続く)

爆発火災があったアニメ制作会社「京都アニメーション」のスタジオ ©時事通信社

◆◆◆

ADVERTISEMENT

京アニ作品に自分のアイデアが「パクられた」と…

 訪問看護師らの心配をよそに孤立を深める室内で、青葉は京アニへのゆがんだ憎悪を膨らませた。その決定打となる事態が訪れたのは、2018年11月のことだった。

 偶然、チャンネルを合わせたテレビ画面で、京アニ制作のアニメ『ツルネ―風舞高校弓道部―』の第5話が放映されていた。

 合宿でスーパーマーケットへ買い物に来た高校の弓道部員が、次々とかごに商品を入れる。たわいもない会話を交わしながら、精肉のコーナーで立ち止まると、2割引の肉のパックを選び取った。

 そのシーンは、いかにもよくある日常の光景だった。しかし、青葉にとってそれは、目を疑うような映像だった。わずか2分半ほどの場面に「アイデアがパクられた」と、怒りが沸き立った。

青葉死刑囚が“盗用作品”として挙げている「ツルネ―風舞高校弓道部―」

「爆発物もって京アニ突っ込む」「無差別テロ」と投稿

 青葉は、京アニ大賞に落選した自身の小説『リアリスティックウェポン』で、ヒロインが5割引の総菜を買いあさるシーンを記していたという。

 京アニに盗作されたという青葉の疑念は確信に変わった。「2ちゃんねる」への投稿で、青葉は怒りをぶちまけた。

#2018年11月19日午前0時27分

すげえ ツルネでもパクってやがる ここまでのクズども見たことねえ つくづく、相容れない

#同日午後7時12分

『京アニに裏切られた』なんていうのも あの時、もっと細かく気にして『これはなんかあるぞ』と予測しとけば、わざわざ、『爆発物もって京アニ突っ込む』とか『無差別テロ』とか『裏切られた』など感じる必要もないわけで

「爆発物もって京アニ突っ込む」「無差別テロ」といった表現は、後の惨事を彷彿とさせる。