2024年2月、元島民である山下賢二へのインタビューが終わった後、賢二の長男・達美にその質問をした。
「私はこういうことを言っては目の前で失礼ですけど……」。そう申し訳なさそうに前置きした上で話したのは、報道についてだった。
「なんでもっとマスメディアがね、しっかりね、伝えないのかと……」
デモ行進する元島民たちへの冷たい反応
硫黄島民の未帰還問題は、ほとんどの国民に知られていない。現在だけに限らない。硫黄島に帰りたい島民1世がまだ多く健在だった時代もそうだったと振り返る。
達美は大学時代、帰島実現を求めて国会議事堂に向かうデモ行進に参加したことがある。一人でも多いほうがいいから、と賢二から声をかけられて参加した。1979年のことだったと記憶している。先頭に立って島民1世たちとともに横断幕を持って歩いた。
そのときの沿道の通行人の反応はどうだったのか。質問すると「ああ、そうなの、という感じでした。そんなもんぐらいでしたよ」と達美は苦笑しながら答えた。
無関心だったのは通行人だけではなかった。メディアも同様だった。知る限り、新聞もテレビもデモ行進を報じてくれなかった。そう振り返った上で達美は言った。「(島民1世たちは)硫黄島の問題でいろいろ取り組んでおりましたけど、報道はぽつっと出ては消えるの繰り返し」。だから、社会の関心も高まることはなかった。
映画の中で、島民の描写は“一瞬”だった
硫黄島に多くの国民が一斉に目を向けた時期はあった。クリント・イーストウッド監督の映画『硫黄島からの手紙』が公開された2006年だ。
同作品は、俳優の渡辺謙が演じる最高指揮官栗林忠道中将らを軸に守備隊の戦いの経過を描いた作品だった。硫黄島を題材とした作品として希有だった点は、島民の存在も描いたことだ。空襲が激化しつつある硫黄島で、栗林中将が戦禍に巻き込まれることになった島民たちを不憫に思い「島民は速やかに本土に戻すことにしましょう」と部下に指示する場面だ。