『日ソ戦争 帝国日本最後の戦い』(麻田雅文 著)中公新書

 著者は2016年刊行の『シベリア出兵』も話題を集めた、近現代日中露関係史研究の俊英。本書も日・露・米の史料を駆使し、日本とソ連の間で繰り広げられた凄惨な戦闘に、新たな角度から光を当てる。

 第二次世界大戦の末期である1945年8月8日に、ソ連は日本に宣戦布告した。半月足らずの戦争ではあったが、日本の敗戦を決定づける最後の一押しとなっただけではなく、シベリア抑留・中国残留孤児・北方領土問題など、数々の重大な事象の起点ともなった。

 戦争の背景を探る研究はこれまでにも積み重ねられて来た。しかし一方で、ロシアでは「ソ日戦争」と称されているが、日本ではいまだに正式な名称すらないのだという。それを踏まえれば、書名だけでも著者の覚悟の強さが伝わるだろう。

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「ロシアが所有する鹵獲(ろかく)関東軍文書の内容など、新しい情報を盛り込みつつ、一冊でテーマの全体像に見通しが立つ構成になっています。ウクライナ情勢もあり、ロシアの戦争時の行動原理が、あらためて注目されています。さらにいえば、この時代の戦争は帝国主義国家同士によって行われた、いわば近現代の世界における極限状況。そのときに人が何を感じ、どう行動するのか。そうしたことへの関心の高まりも、本書の好評に繋がっているのだと感じています」(担当編集者の白戸直人さん)

2024年4月発売。初版1万3000部。現在8刷6万2000部(電子含む)