東京都港区のタワーマンションから、若い女性が飛び降りる事件が発生した。飛び降りたのは都内の大学に通う清川さちこ(19)。彼女は同マンションで行われていたパーティーに参加しており、会場で大量の薬を摂取したことによる、いわゆるオーバードーズ状態だったと思われる――。

 

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「港区女子」という言葉には、淫靡な匂いがまとわりついている。

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 港区にはおしゃれで、豊かで、芸能人が街を歩いているようなきらびやかなイメージがある一方、「港区女子」となるとおしゃれなイメージとともに、高級ラウンジで10代の学生バイトがシャンパンを空け、父親ほど年の離れた男に春を売る、といったイメージも浮かんでくる。

 

 もちろん、こういった後ろ暗いお金を稼いでいるケースは一部でしかないだろう。しかし、『だって私は空っぽだから』で描かれる「港区女子」は、先述のような法に触れる稼ぎ方をした女子大生が、”東京の闇”とも呼べるような犯罪に巻き込まれていく。

 神奈川県の農家から上京してきた主人公の清川さちこは、既刊の第2巻において「パパ」の進藤に騙され、想像を絶する性被害に遭った。キラキラした都会にあこがれた若い女性が、その純粋さに付け込んだ悪意によって尊厳を蹂躙される……。さちこの人生はどん底まで落ちたかに思えたが、「東京の闇」は彼女を逃してはくれない。

「あんま長持ちしなそうだから、最後にでっかく稼いでもらう方向で」(『だって私は空っぽだから』③より)

 

 レイプ事件から回復しつつあるさちこに、進藤はさらに非情な罠を仕掛けていくのである。その、人を人とも思わない、鬼畜の所業とも言える進藤の計画は決してフィクション上の絵空事ではなく、実際の事件を想起させるものであるのが何よりも恐ろしい。

 第3巻でさちこの悲劇を描いた港区編は終わりを迎える。「とにかくお金が欲しい」「ブランド物を身に着けたい」「有名人と知り合いたい」という大学生の虚栄心が利用された悲劇は、多くの読者にとっては他人事のように、「バカな子だな」と安全地帯から楽しめるフィクションかもしれない。しかし――。

 「さちこが抱いた『空っぽ』な欲望はあなたの中にもくすぶっている。ほら、ここに……」

 そう私たちに語り掛けるように、物語は新しい「空っぽな女」に焦点を合わせ、また新たな転落劇を描いていくことになる。2024年に始まった新NISAで投資デビューをしたそこの「あなた」に。

だって私は空っぽだから 1

タナカ トモ,らんこくみ

文藝春秋

2024年8月22日 発売

だって私は空っぽだから 2 (Seasons)

タナカトモ ,らんこくみ

文藝春秋

2024年12月27日 発売

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