「彼女の見た世界」を撮るための演出

 結局、彼女は時効を目前にして、あえなく逮捕されてしまった。

「最後のおでん屋の女将さんとか客とか、相手にはバレていることを感づいていたと思いました。佐木さんの評伝を読んでいると、逃亡中はずっと仕事を探しているのに、最後に滞在した2カ所ぐらいではもう仕事をしていない。働く気持ちがなくなっているんです。不審に思われたりしたらすぐ逃亡していたのに、最後のころはおでん屋に行って昼から飲んでるんですよ。怪しい人です、って言っているようなものでしょう。本人も最後はあえて逃げないようにしていたようにも見えます」

 今回、石田は監督をするにあたって、過去の映像化で描かれてきた福田和子像とは異なるアプローチで挑んだ。

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「これまでさまざまな女優さんが演じている。それをもう一度私がやっても仕方ないので、彼女がどういう世界を見てきたか、その方向でやったら面白いかな、と。そうなると主観映像で撮るのがいい。ただ、人の目から見た視野は狭いので、それならスタンダードで撮ろう、となりました」

©2025 Triangle C Project,Inc.

 主人公の視点がカメラになっているため、石田が演じる主人公に向けられた視線を映像化したものになっている。石田が演じている姿は映画の中盤までほとんど登場しない。

「私にセリフ自体がほとんどないので、カメラを向けながら、相手の役者の演技は、ほぼモニターでチェックしていました。セリフがある時はカメラの後ろでしゃべる。自転車で逃げるシーンや、ラブホテルでのシーンではGoProを頭に装着して撮影しました」

 俳優が主演・監督・脚本まで手がけるケースはあっても、今回のように編集まで関わることは珍しい。

「脚本も私が書いているので、必要なカット、不要なカットは全部わかっているし、それなら私が編集までやるのが一番いいと思ったんです。それに、今は自分の部屋で編集できちゃうんです。わからないところは人に聞くけれど、サイズも変えられるし時間ものばしたりできる。それに編集ってすごいですよ。どんな仕事をしていたか、現場の様子が全部映ってるんです。サボってる現場とか全部バレバレ、コワいですよ(笑)。でも面白いこともあって、毎日ずっと見ていると、映像自体が “ここはいらない” “もっとこうしてほしい”って語りかけてくるような気がするんです。私は“はい、わかりました”とやるだけ。もう映像の奴隷ですよ(笑)」