「上司」と「経営者」の承認が必要な公務災害
しかし、結果以前に、そもそも申請自体困難を極めていた。民間企業で働く人であれば「とりあえずなにかあったら労働基準監督署に行こう」と思うかもしれないが、教員の過労死の認定を受けるための「公務災害申請をそもそもどこにすればいいのか知らなかった」(祥子さん)という。同じような状況に置かれている地方公務員やその家族は少なくないだろう。
実は、公務災害は地方公務員災害補償基金という各都道府県に設けられた団体に申請することになる。ただし、労災の場合であれば書類を労働者もしくは遺族が提出することができるが、教員の公務災害の場合は、所属長(学校長)と任命権者(教育委員会)を通じて行うこととなっている。過労死の場合、遺族が校長に書類を提出し、校長が教育委員会に書類をまわし、その上で教育委員会が地方公務員災害補償基金に提出して初めて申請となる。
しかし、ここには大きな問題がある。校長とは上司であり、その学校の労務管理の責任者である。また教育委員会は採用決定などの人事権を持ち、教員に給料を支払う文字通り「経営者」である。つまり、以下の図をみていただければ一目瞭然だが、民間の場合は遺族が会社の意向とは関係なく直接労災申請できるのに対して、公務災害の制度上は「上司」と「経営者」が同意しなければ、申請書類を地方公務員災害補償基金に提出することが原則できないことになっている(ただし、「校長等(所属部局の長)において災害の発生状況等の把握が困難であり、認定請求書等の記載内容について証明できない箇所がある場合は、当該箇所が証明困難である旨を記載して提出できます」とされている。(東京都公立学校における公務災害・労働災害請求の流れ[東京都教育委員会任用教職員の場合]より)しかしその場合でもその後のやり取りは学校長を通じて行うため、結局「上司」を通じて公務災害の手続きを行うことになる)。
これがいかに問題含みかは少し考えてみてもわかるだろう。もし校長がパワハラをしておりそのパワハラ被害者の教員が亡くなった場合、校長が公務災害の申請に同意するだろうか?「働き方改革」で成果を出すことが求められている教育委員会が、積極的に公務災害の申請を認めるだろうか? むしろ、公務災害の申請を拒否して実態をもみ消すモメントのほうが圧倒的に強くなると考えるほうが自然だろう。
遺族が申請すらできず、悪者のように扱われるケースも
実際、校長によるパワハラが原因で自死に至ったケースは珍しくない。秋田県仙北市立生保内中学校の男性職員が2019年7月に自死した件では、同校の校長による自死した男性職員を含めた複数の教職員に大声で怒鳴るなどのパワハラがあり、それが自死に影響があったと認定されている。このケースは申請書類が提出され公務災害と認定されているが、報道もされずに埋もれているケースは枚挙にいとまがないだろう。
(校長パワハラ、中学校の40代職員自殺 公務災害に認定 https://www.digital.asahi.com/articles/ASNDK1SSLNDJULUC00M.html)
