もっとも、春画が登場した時代は、戦などなかったわけで、こうした各種のマジナイには、春画を買うための口実として生まれたものもあるかもしれない。
春画は、性を題材にしたものだが、男女の営(いとな)みをただ、ありのままに写したわけではない。別名「笑い絵」と呼ばれたように、笑いや遊びの要素も巧みに織りこまれている。いわば、表現は漫画的であり、登場人物はいずれもデフォルメされて描かれている。
とりわけ、極端に誇張されたのが男根であり、どの絵を見ても、登場する男性はありえないほどの巨根の持ち主である。絵のなかでは、「張形」さえも巨大に描かれている。
たとえば、浮世絵春画の祖といわれる菱川師宣の『床の置物』では、小間物屋が持ちこんだ張形を、奥女中たちが選んでいるシーンが登場する。
そのなかのひとりの女性が持っている張形は、どう見ても巨大サイズなのだが、絵に添えられた詞書には「是はちいさい、もっとおおきなのがほしうござる」とある。「おいおい、それ以上大きいのが欲しいって……」と思わずツッコミを入れたくなるが、それが笑い絵の手法。見た者をクスッと笑わせれば、春画としては成功というわけだ。
春画に描かれなかった女性の部位
いっぽう、女体の描き方はどうかというと、男根を誇大描写したために、受け入れるほうの女性器も大きく描かれることになり、その代わりにヘソや肛門は省略されている。
もうひとつ、大きな特色としては、乳房の描写がおざなりで、バストに焦点を当てた絵はほとんどない。そもそも、春画には“挿入”の場面が多く、前戯の描写は少ないのである。その数少ない前戯でも、男性が乳房を愛撫する絵というのは、ほとんど見当たらない。
したがって、乳房の描き方はきわめて大ざっぱで、老婆の乳のように垂れ下がっていたり、全裸なのに乳房が描かれていなかったりする。もっとも、江戸時代の女性にとって、人前でオッパイを出して授乳するのは当たり前のこと。