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タモリに通じる仕事観

 草彅は、演技に目覚めたきっかけを問われるたび、舞台『蒲田行進曲』(1999年・2000年)で劇作家・演出家のつかこうへいに出会ったことをあげている。つかにはかつて「役者に気持ちはいらないんだよ」と言われ、そのときは「この人、何を言ってるの?」と思ったものの、その言葉はずっと草彅の胸の中にあり、よく思い出すという。つかが2010年7月10日に亡くなって数ヵ月後には、先の言葉を引用しながら、次のような演技観を語っていた。

「パラ駅伝inTOKYO 2018」のステージで 

《よく僕が思うのは、自分がどう思うか、なんて関係ないんじゃないか、っていうこと。役者さんのエゴってすごくあるから、撮影で『気持ちがいま入り込めてなかったので、もう一回やらせてください』って、いうこともありますよね。でも、それは自分がどう思うかじゃなく、お客さんがどう観るか。そして監督がどう思うか。すべてお客さんと観客に委ねるしかない》(『キネマ旬報』2011年1月下旬号)

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 同じ理由から、自分で《こういう役をやりたいとか、こういう映画をやりたいとか言ったことはないですね。いい素材だと思ってもらえることが大事だと思いますから》と、別のインタビューで語っている(『キネマ旬報』2012年11月下旬号)。与えられた場所で、要求に応じて自分の力を発揮するというのは、つかとともに草彅の人生の師というべきタモリにも通じるかもしれない。