報道関係者は体育館の検視場には入れない。「関係者以外は立ち入り禁止」の紙が貼られている。入口の白いカーテンの奥に暗幕が張られ、遮断してある。それでもカーテンをずらして中の様子を窺うと、腐臭を和らげる線香の匂いが充満していた。

 が、モアッとした空気には遺体から発する独特の臭いが混じっている。机の上には棺が整然と並べられ、内科系と外科系の医師や歯科医師、看護師、警察官が棺ごとに集まって検視作業をしている。

 藤岡多野医師会所属のある医師に聞いたところ、1日目は完全遺体が多かったが、2日目は頭部、胴体、手足が離断した遺体、3日目からは炭化した遺体や手、足、顔などの部分遺体、内臓等がビニール袋に入れられてきたという。当然、日を追って損傷の激しい遺体が到着する。暗幕で検視場を囲んでいるため、体育館内部は人の体温以上の38度前後になっており、腐臭で食事をする気がしてこないし、できない。汗だくで夜遅くまで作業を続け、1日で2キロ以上体重が減ったこともあるという。

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「村からハエや蚊がいなくなるはずだなぁ」

 記者の一人が私の背中をたたくので、外に出ると「ちょっと、体育館の裏手を見てください」という。ついていくと部分遺体に看護師がホースで水をかけ、蛆虫を流していた。

「うわぁ、すごい」。蛆虫は見たこともないような大きさに成長していた。「上野村からハエや蚊がいなくなるはずだなぁ」と思った。事故取材は、墜落した機体だけでは一部の理解でしかない。こういう事実を知ることが事故全体の理解につながり、「空の安全」の大事さを痛感する。現場取材の大事さと、後で資料で知ることの違いでもある。

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