「泣いちゃうかも」の破壊力

 道重さゆみの、モーニング娘。の在籍期間は11年10カ月。デビュー曲の19th「シャボン玉」から57th「TIKI BUN/シャバダバ ドゥ~/見返り美人」まで、実に39枚ものシングルに参加している。

 歌もダンスも苦手で、メンバーになってからも「私ってモーニング娘。に必要なのかな?」と悩み続けたというが、初期から、つんく♂が彼女に寄せる、飛び道具としての期待はかなり大きかったようにも思えるのだ。

 私は道重さゆみは特に推しではなかったが、それでも2010年前後のモー娘。の歌で真っ先に思い出すのは、38th「泣いちゃうかも」で彼女が歌った「また一人ぼっちマリコ」。36th「リゾナンドブルー」が名曲中の名曲と言い切れるのも、道重の「ヘルプミー!」という叫びがあってこそである。

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 甘いしゃくり上げた声は、加工に乗り、夢と現実の境目のような世界観を丸ごと作るパワーを持っている。つんく♂も「彼女の唄はリズムが良い、歯切れもすごく良い」(つんく♂オフィシャルウェブサイト)と評価。「ラララのピピピ」「シャバダバダ ドゥ~」や「ファンタジーが始まる」など、彼女の声無しでは成り立たない。

伝説と呼ばれた“プラチナ期”に当たる「モーニング娘。コンサートツアー2010秋」最終日。(手前から)亀井絵里、光井愛佳、道重さゆみ、ジュンジュン、田中れいな、新垣里沙、リンリン、高橋愛

 2年半の活動休止を経て2017年からソロ活動が始まったが、「Sayutopia」MV(2021年)が偶然流れてきたとき、何気なく再生して、こんなに上手い人だったかと驚いたものである。音痴どころか、楽曲の中に込められた愛情や、ひたひたにひたされたコンプレックスまで、歌声から感じるくらいになっていた。

つんく♂は「この子自体が作品やな」

 令和は「鑑よ鏡」の時代。情報量や言葉の刃に埋もれないよう、自分自身を認め、褒めるおまじないを誰もが求めている。「かわいいだけじゃだめですか?」(CUTIE STREET)「今日ビジュイイじゃん」(M!LK)。この先駆けが、道重さゆみだったと思うのである。ずっと貫き通した「私はかわいい」は自己主張と同時に、観ている人たちに向けての、肯定のおまじないだった。

 理想と現実を突きつけられ、アイデンティティを喪失し、自分の言葉で話し、書き、ときにサービス精神がいき過ぎて炎上する。もがいてもがいて、自分流の表現方法を確立していくプロセスは、観ていて清々しかった。

 2002年のオーディションの最終審査、揺れ揺れの音程で「赤いフリージア」を歌う道重を見て、つんく♂が笑いながら言った言葉がある。

「この子自体が作品やな」

道重さゆみ(2004年3月撮影) ©︎時事通信社

「つんく♂の先見の明はすごい」と前述したが、道重自身が、時間をかけ、トライアンドエラーを繰り返し、この言葉を「予言的中」にしていったともいえる。