否定されなかった「これぞクラフトビール」
2021年にキリンビールが発売した豊潤〈496〉に関するキャンペーンが事の発端です。同ビールについてTwitter(現X)で「#これぞクラフトビール」というハッシュタグのキャンペーンが大々的に行われました。私にとってはクラフトビールとは現象であり、概念であり、個別具体的な液体を指すものではありません。また、多くの人が関わる現象であるので、様々な形で表現されるものだと考えています。そのため、ハッシュタグに使われている「これぞ」という表現からは「他でもなくこれこそが」という排他的なニュアンスを感じ取ってしまい、違和感を覚えました。アメリカであれば炎上待ったなしのハッシュタグだったとも思います。
しかし、現実は違いました。プレゼント企画であったことも考慮する必要はありますが、当該キャンペーンへの投稿は、ほとんどが好意的なものでした。クラフトビールなのかどうかについて疑問視するものや、そのスタンスに対する疑義を呈するものはごく少数で、全く炎上しなかったのです。
ここにも日本とアメリカのクラフトビールに関する違いが見て取れます。独立性を重視する姿勢やカウンターカルチャー性が見られるアメリカとは対照的に、日本では新しいビールが登場したというイベントとして純粋に喜んでいたようなのです。心の中では反発していた人もいるかもしれませんが、少なくともSNSというオープンな場で対抗的な意見を発する方は少なく、そのような情報も聞こえてきませんでした。「これぞクラフトビール」は積極的に肯定されたとは言えなくても、否定されなかったことは間違いありません。その意味で日本では大手によるクラフトビールも受容されたのだと考えて良いのでしょう。
なお、これは消費者だけでなく、国内クラフトブルワリーにも同様に見られる態度です。東北のクラフトブルワリーが集まったプロジェクトではキリンビールがビールの分析や品質評価会、メディア発表会を実施するなど、ブルワリーの品質や広報活動の支援をしています。また、滋賀県で設立されたクラフトブルワリーの任意団体である滋賀クラフトビールアソシエーションにはキリンビール滋賀工場が正式メンバーとして参加しています。
