クラフトビールという言葉が日本で広まり始めて10年超。さまざまな個性的な商品が各社から販売されてきたが、実態としてクラフトビールの“定義”は定められていない。そんななか大手メーカーはどのようにクラフトビールと謳った商品を送り出しているのか。

 北米ビール作家協会正会員の沖俊彦氏による『クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会』(角川新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の2回目/1回目を読む)

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大手ビール会社が語るクラフトビールとは…

 2015年、大手もクラフトを称するブランドを立ち上げ、スーパーマーケットやコンビニエンスストアに缶ビールが並び始めます。人気が出始めたクラフトビールでしたが、それはまだ一部の熱狂的ファン、感度の高い人のものであり、世間一般にまで波及したものではありませんでした。そんな状況であったため、クラフトビールという言葉を日本中に広めたという点で大手4社の功績は大きなものです。しかし、大手の言うクラフトビールと、本記事で言うクラフトビールは、同じ言葉でありながらその内容は異なるものだということは強調しておく必要があります。

 本記事では大手ではない、独立系小規模醸造所のことをクラフトブルワリーと呼び、その醸造所で作られるビールのことをクラフトビールとしています。それでは、大手の言うクラフトビールが何なのかを見ていきましょう。ここでは例としてキリンのスプリングバレーブルワリーを取り上げることにします。

写真はイメージ ©AFLO

 日本ビアジャーナリスト協会の「クラフトビール市場の活性化を。キリンビール“第三の柱?『SPRING VALLEY 豊潤〈496〉』」という2021年の記事では、同ビールの開発責任者の言葉として以下のように記されています。

「『クラフトビール』という言葉に正確な定義はありません。キリンではスプリングバレーというブランドに込められた150年にわたるストーリー、先人の志、魂を受け継いだ醸造家の想い、それらを具現化したおいしさを味わってもらうことを『クラフトビール』と考えます」(田山さん)

 これがキリンビールによるクラフトビールの定義だと考えて良いでしょう。また後段では、別の人によって次のように語られています。