クラフトビールという言葉が日本で広まり始めて10年超。さまざまな個性的な商品が各社から販売されてきたが、実はクラフトビールの“定義”は定められていない。では、いったいなにがクラフトビールとして売り出され、消費者はなにをクラフトビールとして受け入れているのか。

 北米ビール作家協会正会員の沖俊彦氏による『クラフトビール入門 飲みながら考えるビール業界と社会』(角川新書)の一部を抜粋し、紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)

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アメリカに見る業界団体とホームブルワーの役割

「アメリカにはクラフトビールの定義があるが、日本にはない」とよく言われますが、これは正確ではありません。アメリカでの状況を確認しつつ、それと対比させる形で日本のクラフトビールの現状に迫っていきたいと思います。

 アメリカではBA(Brewers Association/醸造家が加盟する業界団体)が「年間生産量・独立性・ライセンス」によってクラフトブルワーを定義することで、小規模事業者をまとめ、ロビー活動をしています。また、クラフトブルワーの情報を吸い上げてまとめ、業界動向の可視化に貢献しています。アメリカにおけるクラフトビールムーブメントはBAによって客観的かつ統計的な指標を与えられ、それを活用することで大きく飛躍したのです。また、ホームブルワー(自家醸造家)を含む消費者がムーブメントの起点となってボトムアップで発達したのがクラフトビールという現象です。つまり、主観的で情緒的な感性が先行し、後から客観的に評価することのできる指標が付け加えられた、という順番になっているのです。

ホームブルワーがいない日本のムーブメントの形とは…

 それでは日本ではどうなっているでしょうか。「日本にはクラフトビールの定義はない」のは実際その通りで、統計的指標となるクラフトブルワーないしクラフトビールの定義は今のところありません。業界団体が定義してその条件を公開したこともありますが、それが世間一般に広まることはなく、いつの間にかその定義に関する情報も当該団体のウェブサイトから削除されてしまいました。

 そもそも日本では免許を持たずにアルコール度数1%以上のものを作ることは法律によって禁止されており、ホームブルーを行うことができません。そのため、シーンを構成するプレーヤーも、アメリカでは「醸造家(プロ)・ホームブルワー(アマチュア)・消費者」であったのが、日本ではアマチュアがいない「醸造家(プロ)・消費者」のみとなります。そのため日本ではアメリカのようなボトムアップではなく、別の形でムーブメントが生まれるようになりました。