大手の参入と国産ヘイジーIPAの登場

 2014年の試験販売期間を経て、本格的に大手が参入したのが15年です。キリンビールが東京・代官山にSPRING VALLEY BREWERY TOKYOをオープンしたのがこの年で、他の大手もクラフトを冠した商品を次々に投入します。17年には独自規格のビールサーバーであるTap Marche(タップ・マルシェ)が首都圏1都3県で展開を開始しました。3リットルという少容量のペットボトルを採用し、1台で4種類の提供が可能になったのが画期的で、小さな飲食店に多数導入されました。首都圏での高い評価を得て、翌年には全国に広まっていきます。タップ・マルシェ導入店の入口に「クラフトビール、あります。」と謳ったポスターが貼られるようになり、街中にクラフトビールという文字をよく見かけるようになりました。外食産業における大手ビール会社の取り組みによって一般層にクラフトビールがより知られるようになったのです。

 2017年は現在への流れを決定づける国産ヘイジーIPA登場の年です。当時すでにアメリカで注目を集めていたヘイジーIPA(当時はニューイングランドIPAと呼んでいました)ですが、その存在が知られているだけで日本ではまだ作られていませんでした。それが遂にこの年に作られ始めます。伊勢角屋麦酒、志賀高原ビールなどが最初期に挑戦し、そのビールは熱狂的に受け入れられました。苦みの強いドライなIPAが一定の定着を見せる一方で、苦みがほとんどなく、ホップのジューシーな風味を楽しむヘイジーIPAがどんどん人気になっていくなど、双方のIPAを中心にクラフトビールシーンは進行していきます。

醸造所数は過去最高を更新中

 2020~22年までは新型コロナウイルス感染症の蔓延により、それまで右肩上がりであったクラフトビール人気も一旦落ち着いてしまいます。この落ち込みには飲食店が営業を自粛し、ビール祭りをはじめとするお酒関連イベントが開催されなかったことが大きく影響しています。しかしながら、外食が落ち込んだ反動で家飲みが伸長し、その需要に合わせ、それまで取り扱いのなかった小売店に瓶や缶のクラフトビールが供給されるようになりました。スーパーマーケットやコンビニエンスストアでの取り扱い点数が拡大したことは、家飲みでのクラフトビールの定着に大きく貢献しています。

ADVERTISEMENT

 コロナ禍が明けて2023年から徐々にイベントも復活し、24年になるとビール祭りはコロナ禍以前同様、もしくはそれ以上の盛り上がりを見せています。コロナ禍の最中に開業した醸造所も多く、現在醸造所の数は過去最高を更新し続けていると言われます。

 私の見ている範囲では、コロナ禍という特殊な期間があったものの、地ビールからクラフトビールと名を変えた2010年代以後ずっと人気は上昇しています。但し、醸造所の軒数が過去最高であることが生産量や消費量と比例しているかは統計データがないので正確なことはわかりません。この点は留意してください。

次の記事に続く 《アメリカでは炎上待ったなし…》キリンビールが行った新商品発売キャンペーンに“ビールの専門家”が覚えた“強烈な違和感”