クラフトビール専門店の台頭
2011~12年はクラフトビールの萌芽が現れた年です。当時私がヒアリングしていた印象では、旅行や出張などでヨーロッパやアメリカを訪れクラフトビールを体験した人が増えていて、各地で人気を博している新興醸造所の情報が徐々に日本に入ってきていました。また、地ビール低迷期である2000年代初頭から継続して開催されていた日本各地のビールを集めた大規模イベントの影響も大きいと思います。たとえば東京・吾妻橋で開催されていたリアルエールフェスティバル等が、かつて低品質であったとされる地ビールが生まれ変わっていることを示してきたのも、コアなファンの醸成に貢献していたと私自身も参加しながら感じました。そうした中から東京都内を中心に、流行に先んじてクラフトビールを多数扱う専門店を開業する方が現れました。それまでドイツ、ベルギーのビールを扱う専門店はありましたが、国産のみならずアメリカを含む海外のクラフトビールを専門的に扱う飲食店は珍しく、トレンドに敏感なアーリーアダプター層がそうしたお店に集まってコミュニティを形成したのです。
「知る人ぞ知る状態」から「表舞台」に
2013~14年はクラフトビールという言葉が顕在化した年です。「地ビール」もまだまだ使われていましたが、新たに「クラフトビール」も使われるようになっていきました。雑誌の表紙や記事のタイトルにクラフトビールという言葉が並ぶようになり、『ビアびより』や『ビール王国』などクラフトビールをテーマにした専門雑誌も創刊されました。キーワードの人気度をチェックできるGoogle Trendによると、14年にはクラフトビールが地ビールを超えます。クラフトビールが地ビールを乗り越え、知る人ぞ知るという状態を抜けて、表舞台に現れたのです。
私が調査した限りにおいては、2014年までの日本ではアメリカのクラフトビール同様にヨーロッパの新興醸造所のビールも人気で、それらを特集した大規模なイベントも行われていました。特にスコットランドのクラフトブルワリーであるBrewdog(ブリュードッグ)のPunk IPA(パンクIPA)の貢献が大きかったと推察されます。この時期のクラフトビールという言葉にはヨーロッパ、アメリカ、日本国内を問わず「新興醸造所の挑戦的なビール」といったイメージがありました。以後、アメリカからの輸入品が増えるに連れてトレンドはアメリカに大きく傾き、年々その存在感を強めていきます。
