「女優になります。変なことを言ってると思うかもしれませんが…」
もともと映画を観ることは生活の一部で、父の影響で子どもの頃から三谷幸喜や北野武、クエンティン・タランティーノの作品などに親しんできた。もっとも衝撃を受けた作品はラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)。「音楽の異質さと物語の展開すべてに衝撃を受けて、観終わったあと、過呼吸のようになってしまった」と振り返っている(前出「Web LEON」)。
俳優の道を進むことに決めた河合が足を運んだのが、知り合いの俳優が出演している映画『あみこ』(2017年)だった。『あみこ』の内容にも、自分と年があまり変わらない若いスタッフが作っていることにも強い刺激を受けた。その後、再度劇場に足を運んだ河合が、山中監督に手紙を渡したエピソードはよく知られている。手紙にはこう書かれていた。
「女優になります。まだ何の経験もないのに変なこと言ってると思うかもしれないですが、いつかキャスティングリストに入れてください」(『あさイチ』2024年7月26日)
『あみこ』を観た翌日、河合のインスタグラムにDMが届いた。『あみこ』を上映している映画館で見かけたので、自分が準備している作品に出演してもらえないかという内容だった。送り主は、現在は写真家としても活動する芝山健太監督。河合は『平成最後の夏だった』を観劇してもらった上で、作品への出演を決める。これが主演デビュー作『よどみなく、やまない』(2019年)となる。
18歳で事務所に所属…デビュー当初に抱えていた“葛藤”
偶然が重なった末のドラマチックなデビュー。さらに自分で応募して、緒形拳が設立した芸能事務所・鈍牛倶楽部への所属も決まった。順風満帆に見えるが、河合はあるコンプレックスを抱いていた。それは18歳でのデビューは遅すぎるのではないかという思いだ。
「18歳で活躍している人もいるじゃない。その人たちをテレビで見ていると、今考えると当たり前だけど、18歳で世に出ているということは、その人たちは子役からやっている。それに最初、すごくコンプレックスを抱いていて。事務所のオーディションとか受けるときも、『スタートは遅いかもしれませんが……』みたいに、誰にも責められてもいないのに勝手に言い訳をしていた」(『ボクらの時代』2024年6月9日)
しかし、普通の子どもとして歩んできた10代の経験を活かして、またたく間に映画への出演を重ねていく。『サマーフィルムにのって』(2021年)、『由宇子の天秤』(2021年)などで、ヨコハマ映画祭最優秀新人賞をはじめ、数多くの新人賞を獲得。2022年には実に8本の映画に出演している。舞台にも出演し、大人計画の『フリムンシスターズ』(2020年)、『ドライブイン カリフォルニア』(2022年)では、阿部サダヲとも共演した。
評価されても浮かれることなくクールなまま
情熱的に突っ走って、愛する世界への切符を手に入れた。だけど、冷静さも彼女の持ち味の一つ。どれだけオファーが増えても、どれだけ高く評価されても、浮かれることはなかった。彼女独特のクールな眼差しで、自分のことも俯瞰して見ていたようだ。
「数が増えていくことで怖いなと思うのは、こなしてしまうことです。現場に行ってセリフを言っちゃえば演じたことになってしまうので、それは絶対にしたくないと思います。ファストにしたくないんですよね。そこは常に気を付けています」(「CinemaCafe.net」2023年2月23日)
同じインタビューでは「消費のサイクルに飲まれないようにしたいと思っています」とも語っている。どこまでもクールだ。
そんな中、彼女の存在が爆発的に多くの人に知られる瞬間がやってくる。ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS、2024年)で、80年代からやってきた阿部サダヲ演じる主人公の一人娘であるツッパリ少女・純子を演じたのだ。
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