とはいえ、絵本が出た当初は正直話題になりませんでした。アンパンマンが自分の顔を食べさせることが残酷だといった批判などもありました。先生自身も「コミックと違って絵本だからアニメにしても続いていくのか」という心配を抱いていました。
しかし、テレビ局のプロデューサーは「子どもたちがボロボロになるまで絵本を読んで買い替える現象を見れば、絶対にウケる」と太鼓判を押し、制作会社も「キャラクター自体が良いから、(連載漫画ではなく)絵本でも大丈夫」と判断しました。そして、実際にアニメーション化された時には大きな反響を呼んだのです。
「俺の絵の中には必ずギャグが入れてある」
やなせ先生は、自身の作品が人気を博した理由について、こっそり明かしてくれたことがありました。それは、「俺の絵の中には必ずギャグが入れてある」ということでした。ギャグというのは漫画家の笑わせるネタのようなもので、絵本やイラストの中に笑わせる部分を必ず入れていたのです。私は全く気づかなかったので、先生に教えてもらって初めて知りました。それを知ってからはギャグを探して見てみようと思いましたが、理解するにはある程度の笑いに対する素養が必要なので、私はまずそれを磨くのが先だと思っています(笑)。
現在の漫画には笑いがないシリアスなものもたくさんありますが、先生が活躍していた時代の漫画家達は、漫画には風刺や笑いが必要不可欠だと考えていました。「笑いは絶対のもの」という信念から、作品の中に必ず笑いの要素を織り込んでいたのです。
やなせ夫人は75歳のとき乳がんで他界
ところで、やなせ先生がアンパンマンのアニメ化でブレイクする少し前に、妻の暢(のぶ)さんは乳がんを患って手術をし、私が就職して半年ぐらいすると、体調を崩すようになっていました。先生は暢さんと二人きりのときは「オブちゃん大丈夫ですか」とニックネームで呼びかけ、体調の悪い暢さんを気遣って夕食を作り、暢さんは自分がいなくてもスムーズに暮らせるようにと、やなせ先生に料理を作ってもらい、見守っていました。
