周囲を楽しませるためにはお金を惜しまず
やなせ先生が普通の人とは全く違っていたこととして、お金の使い方もあります。ドラマ「あんぱん」(NHK)では嵩(北村匠海)が描いた漫画が新聞のコンクールで入賞した際、のぶ(今田美桜)たちにラムネやかき氷を御馳走したり、弟・千尋(中沢元紀)に小遣いを渡したりしていましたが、やなせ先生も実際、日頃の自分の暮らしに関しては翌月分の生活費をしっかり確保しておく堅実さがある一方で、漫画で賞金が入ったときなどはみんなで使ってしまっていました。
学生時代から、新聞の懸賞で賞金をもらうとクラスの仲間と京都旅行に行くなど、お金を人のために気前よく使っていたと言います。アンパンマンの成功後も、年に一度パーティーを開き、一晩で相当な金額を使い、全て先生が招待する形でした。興味深いのは、お金を全部出したうえで、演出なども全て自分で手がけていたことです。招待状を出した人以上に同伴者が増えて大人数になることもありましたが、そうしたあたりにも先生は無頓着でした。みんなと一緒に楽しむためのお金は、惜しみなく使えるのです。
高知のアンパンマンミュージアムの裏話
故郷・高知県の香美市にできたアンパンマンミュージアムのエピソードも印象的です。最初は人が来てくれるかどうか心配していましたが、予想以上に多くの来場者がありました。すると先生は「アンパンマンを見るために来てくれるのだから、ギャラリーに他の人の絵や自分の他の作品が飾ってあったら、来場者ががっかりするだろう」と考えました。そこで「もう一つ美術館(やなせたかし記念館)を建てて、ここはアンパンマンだけにしよう」と決断したのです。
お金を寄付して市が建てるという方法だと入札や議会の承認で時間がかかるため、先生自身が建てて、それを寄付すれば早いと考え、「じゃあ、俺が建てる」と言って本当に実現させました。その後も倉庫が足りなくなると別館を建てて寄付するなど、ミュージアムの充実に私財を投じ続けました。現在も先生の展覧会が全国各地で開催されており、それでもまだミュージアムに展示できる作品があるほど、膨大な数の作品を残されています。