「痛み沼~」は、そのような痛みを抱え、苦悩した末にようやく専門的な治療が受けられる「集学的痛みセンター」にたどり着き、適切な治療を受け、日常生活を取り戻した患者6人と専門医の短いインタビューで構成されている。

診断がつくのは治療のスタートライン

6人が共通して口にしたのは「慢性痛にかんする正しい情報が少なすぎる」ということだった。未だに2000万人以上もの人が痛みで苦しんでいる事実に社会の目が向かないのは、「慢性痛と急性痛は全くの別物で、原因も治し方も違う」ということを、あまりにも多くの医師が知ろうとしないからに他ならない。

たとえばドラマの中で黒岩は、画像診断や血液検査を繰り返し受けるが、これは急性痛を生じさせている組織の損傷や炎症を探り、原因となるケガや病気を診断するための検査だ。

ADVERTISEMENT

慢性痛は、原因となるケガや病気が治っても続く痛みなので、これらの検査を受けても異常はみつからない。意味があるとしたら、「痛みの原因はケガや病気ではない(急性痛ではない)」と、見極めることぐらいだ。(ただし、診察の初期段階では、生命にかかわる疾患の有無を判断しなくてはならないので、この見極めは重要だ)

黒岩は、徳重のお陰で、自分の痛みに線維筋痛症の診断名がつき「やっと病気だって言える」と喜ぶ。診断がつけば、ちゃんとした治療が受けられるし、周囲からも病人として扱ってもらえると安堵した気持ちは、痛いほど分かる。

しかし現実には、診断がつくのは治療のスタートラインに立っただけに過ぎない。

急性痛用の治療は効果がない、難治化のリスクも

慢性痛の名医で知られるペインクリニック内科医の北原雅樹氏は、「診断名がつくことは、たいして重要ではない」と言う。

「なぜなら、線維筋痛症は『原因不明の全身に広がる慢性の痛み』と定義されています。病名が分かっても、病気の原因が分かったわけではありません。こういう病気は実は少なくない。がんの多くも原因不明です。でも治療法や対処法はある」