こう聞くと、「でも正しい診断ができなければ、治療できないってよく言いますよ」と異論を唱えたくなるが。
「診断名が重要なのは急性痛です。診断名が異なると、治療方針も大きく違ってくるからです。でも慢性痛は違います。診断名が異なっても、治療方針はほとんど変わりません。複雑な要因が絡み合って生じているので、集学的に対処していくことが大切なのです」
つまり、線維筋痛症だろうが何だろうが、重要なのは、慢性痛だと判明したら集学的な治療をしてくれる「集学的痛みセンター」のような医療機関にかかること。痛み止め、筋弛緩剤、湿布、電気、手術といった急性痛用の治療は、効果がないばかりか、慢性痛がこじれて難治化してしまう要因になる。
「日本の痛み治療は20年遅れている」と嘆く医師
実際、北原氏の外来には、「原因不明」あるいは「腰部脊柱管狭窄症」「腰椎椎間板ヘルニア」「変形性膝関節症」「変形性股関節症」等々の診断名のもと、それに応じた治療を受けたがいっこうによくならない、むしろ悪化してしまった患者が次から次とやってくる。
不必要な薬の投与や手術を受け、心身がボロボロな状態になった人も多いという。
以前の取材で筆者が衝撃を受けた症例では、「腰痛を改善したいと大学病院を受診したプロアスリートが、重度でも何でもない側弯症が痛みの原因と診断されて手術を受けたところ、体をねじる動作ができなくなるなどの後遺症となり、競技を引退。自死してしまった」というのもあった。
検査で異常が見つからないのもつらいが、痛みとは関係ない異常を見つけて不要な手術をされるのはもっと怖い。
「日本の痛み治療は、欧米に比べて20年遅れているのが実情です」と北原氏は嘆いている。
「集学的痛みセンター」の知名度が高まれば…
しかも、線維筋痛症の診断は難しい。事実、原作コミック『19番目のカルテ 徳重晃の問診』(ゼノンコミックス)にも、首をかしげてしまうような情報が複数カ所見受けられた。