線維筋痛症とはどのような病気なのか、発症時から現在まで、つらい経験を包み隠さず明かしてくれたYさん(40代)は、かつて金融機関に勤めていた。きっちりと膝を揃えて座り、目を見て、言葉を選びながら静かな声で話す様子からは、真面目で誠実な人柄がうかがえた。

始まりは、風邪のような発熱だった。寝込んだ後、全身を針で刺されるような激痛に襲われる。一体、自分の身体で何が起きているのか。病院を回り、さまざまな検査を受けたが異常は見つからない。痛み止めも全く効かない。だが見た目は健康、検査も異常なし。医師たちからは「気のせい」と冷たくあしらわれ、職場からも「病気じゃないんだよね」と理解されない。

退職に追い込まれ、不安に押しつぶされそうになっていた中、慢性痛治療に専門的に取り組む「集学的痛みセンター」を紹介され、3週間入院。治療を受けたところ症状が好転し、以前より興味があった仕事をパートタイマーとして始めてみた。現在、痛みはほぼなくなり、新たな仕事に就き、充実した毎日を送っている。

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リアリティ溢れるには、過去のYさんが反映されている。

*集学的治療とは、医師、看護師、公認心理士、作業療法士、理学療法士、薬剤師、鍼灸師など、さまざまな専門家がチームを組んで行う治療を指す。

慢性的な痛みで苦しんでいる人は推計2315万人

筆者がYさんと出会ったのは2021年。近畿地区(大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、滋賀県、和歌山県)の慢性痛患者の診療に携わる医療者グループからの依頼で、動画「“痛み沼”にハマった6人~専門的な治療に出会うまでのビフォーアフター~」を制作するためだった。

なかなか周知が進まないが、慢性的な痛みで苦しんでいる人の数は20歳以上の日本人の22.5%、約2315万人と推計されている。多くは、黒岩百々同様原因不明と放置されるか、誤った診断にもとづく効果のない治療を受け続けるなど、つらい思いをしている。耐え難い苦痛に苛まれていることを周囲(医師を含む)から理解されず、心を深く傷つけられている人も少なくない。絶望から死を考える人もいる。