歌が終わると電光掲示板に5人の審査員の点数が表示される。合計300点を超えれば合格である。

「この日、ぼくは点数係だったんです。電光掲示板に表示できる最高得点が99点なのに(作曲家の)中村泰士さんが100点をつけてしまった。99点までしかつけられませんと言ったんですが、中村さんがこの子は完璧じゃないか、100点あげたいんだって揉めて、収録を中断したんです」

その少女の名は…

 中村が完璧だと表現した少女は中森明菜という――。

ADVERTISEMENT

〈審査員は全員、控室に引き揚げた。中村はそこでも「99点なんておかしい」と担当者に抗議しながら、同時に他の審査員の反応を探った。都倉俊一(作曲家)、松田トシ、阿久悠、森田公一(作曲家)の4人である。

「それとなく明菜に何点を入れたのかを聞いてみたら、僕以外はみんな、評価が低いんですよ。これでは僕が99点を入れたところで、合計しても合格ラインには届かない。焦りました。だから必死に明菜の良さをアピールしたんです。歌が上手いじゃないか、将来性あるじゃないかと。すると他の先生方も渋々、『じゃあ、もうちょっと点数を増やすか』と同調してくれたんです」

 あやういところだったのだ。もしも100点入力が可能であれば、中村一人が高得点でも、結果的には不合格となっていたはず〉(「孤独の研究 中森明菜とその時代」安田浩一 『週刊ポスト』2013年8月30日号)

 収録再開後、採点が始まった。合計点は392点。中森は決勝大会に進み、芸能プロダクションは研音、レコード会社はワーナー・パイオニア(現・ワーナーミュージック・ジャパン)に決まった。 

2025年の中森明菜(写真:本人SNSより)

 研音の社長を務めていたのは、日本テレビ音楽班で金谷の先輩にあたる花見赫である。テレビと芸能プロダクションは反発しながらも引き合う惑星であった証左である。

最初から記事を読む 「歌は上手くない。ただ…」芸能界のドン・バーニング周防郁雄氏がどうしても欲しかった『のちの超有名アイドル』の正体

その他の写真はこちらよりぜひご覧ください。