社会にある「障壁」を取り除くために

2006年に国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」は、「社会こそが『障害(障壁)』をつくっており、それを取り除くのは社会の責務であるととらえている」と指摘している(株式会社WHILLウェブサイトより抜粋)。

「目が見えない」をはじめ、「何らかの機能が失われた状態=障害」ととらえる。それは私たちの側のバイアスが作動しているということだ。

世の中は複雑で多様なレイヤーから成り立っている。それらのレイヤーを見ようとしていないのは私たちの側だ。何らかの機能を持たない人が障壁を感じずには生活できないとすれば、その「障壁」を見つけるヒントを差し出す、それが石井さんの仕事。ヒントを受け取ったうえでどう変わることができるか、私たちは問われている。

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2人のこどもと妻に毎日必ず伝える言葉

見えなくなって9年が過ぎた。当初は「価値のない人間」と自分を否定せずにいられなかったが、尊厳を取り戻していく過程で「金を稼げるかどうかが自分の価値ではない」という考えにいたった。今ではあるがままの自分を認められる。

だが、常に心が凪いでいるわけではない。見えないことに端を発する怒りは日常の些細なことから破裂するときがある。

「音に敏感になるので、たとえば、僕がメールやSNSを音で確認しているときにテレビがついていたり娘や息子の声が賑やかだったりすると、『うるさい』『黙れ』と怒鳴ってしまうことがあります」

感情的に怒ってしまったとき、あとで「今の言い方は悪かった。パパが言葉でちゃんと説明できなかった」と説明し、ごめんねと謝る。朝起きるとハグして「今日もいてくれてありがとう」「うれしいよ」と伝える。

条件付きの愛ではない、どんな状態であってもあなたは大切な人だとこどもたちに伝えたい。目が見えなくなってから生まれた習慣だという。

妻・朋美さんに対しては――?

「寝るとき、『おやすみ』という際に、必ず、妻に『今日もありがとう』と言うようになりました。彼女が気づいているかわかりませんが」