2025年に発売された月刊文藝春秋の膨大な記事の中から、好評だった特集記事を紹介します。

 

 さまざまな著名人が自身の「ワクワク」を掘り起こす特集「戦後80年の懐かしいとワクワク」。ミュージシャンの細野晴臣さんが、音楽に「ワクワク」を覚えた原点や、その中で会得した音楽の楽しみ方について語ります。

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当時のヒット曲は“良い曲”。つまらない曲はヒットなかった

 先日、スライ・ストーン、ブライアン・ウィルソンが亡くなりましたね。何だか20世紀が終わった感じがします。そういう中でも、僕が懐かしさとワクワクを語れるのは音楽しかないんですけれども。

細野晴臣氏 ©文藝春秋

 僕が音楽に接し始めた幼少期から本当に1年ごとに、新しい音が流れてきました。1950年代の音楽を通じて様々な国の音に触れることができた。ラテンや映画音楽、ムード音楽、日本だけのジャンル“中間音楽”などの音で溢れていました。

 音楽の中心はアメリカでしたが、現在のように情報が伝わってこない。情報を得るのはFENなどのラジオ、そして本国版「ビルボード」などの雑誌だけ。主に行くレコードショップは目黒のスミ商会、遠出して銀座の山野楽器でした。マニアックな品揃えは期待できないけど、土地に根づいたレコード屋さんは懐かしい存在になりましたね。

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 当時のヒット曲というのは“良い曲”で、つまらない曲はヒットしてなかった。だから、すごく価値観がシンプルな時代。ポップスは伝統に繋がっているジャンルで、その流れで一箇所、革新的なところ、仕掛けを持つとヒットしていました。僕は、そんなヒット曲を聴くことで、伝統からちょっとずつ進歩してゆく音を捉えていったんだと思います。

 加えて僕ら音楽好きは“探す”という行為自体も好きでしたね。20代の頃、アメリカ西海岸のサイケデリック音楽を手に入れたいと思っていると、大瀧詠一くんから電話がきた。大瀧くんが「探してたアルバム、新宿の店にあるよ。僕が番をしてるからおいで」と(笑)。これはワクワクしました。その店へ行くまでの道のりとか含めて、意中のレコードを手にするまでの過程が素敵だった。

 またレコード屋さんで“餌箱”を素速く繰って盤を見つけるのも楽しかった。知らないレコードだけどジャケットで「コレ!」と決める時もあり、それこそ直感の出逢いがありました。

ザ・ビーチ・ボーイズ「サーフィンU.S.A.」

 直感といえば、ヤマハ楽器のレコード部に行き、1曲だけ試聴してみる。そこで中学の時から大好きだったザ・ビーチ・ボーイズの新譜から1曲選んで聴き、「あ、当たった!」という時の高揚感も忘れられないな。

 海の向こうのバンドを直接見知ってるわけじゃないけど、好きで聴き込んで学んできた積み上げによって“出逢い”が用意される。なんか多幸感がありましたよね。

※本記事の全文(約1800字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」に掲載されています(細野晴臣「大瀧詠一くんからの電話」)。

■特集「戦後80年の懐かしいとワクワク」

中央本線の硬いシート▼林真理子

丸の内の旧国鉄ビル▼原田ひ香

レトロモダンの咆哮▼佐野史郎

大瀧詠一くんからの電話▼細野晴臣

黄金バットの紙芝居▼平松洋子

純粋に不味いもの▼土井善晴

貸本屋とロバのパン屋▼弘兼憲史

立ち読み▼会田誠

16歳、ユーミンに興奮した日▼久住昌之

プロレスと政権交代▼野田佳彦

 

寝台特急と食堂車▼原武史

J・リンのジグソーパズル▼中島京子

熱海への夜行タクシー▼菊地成孔

駅の伝言板と新聞の尋ね人▼田中純

赤坂の料亭▼クリスチャン・ボラー

幻のたぬきラーメン▼高山なおみ

第一次エスニックブーム▼稲田俊輔

生の外国人▼町田忍

50年代のハーフの子供たち▼平野レミ

神保町・竹橋界隈の焼け跡▼藤原正彦

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出典元

文藝春秋

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