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西日本在住の地震学者が実践する「激甚災害」への備え方【防災用品チェックリスト付】

「防災パーティ」で「おいしい防災」を始めよう

2018/07/16

genre : ニュース, 社会

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「おいしい防災」でポジティブな避難訓練を

 企業や官庁では地震の避難訓練を行っているが、今ひとつ関心が薄く盛り上がりに欠ける、という悩み相談をしばしば受ける。それに対して私は、マイナスイメージの防災では誰もついてこない、もっとポジティブになるように避難訓練を工夫しましょう、とアドバイスする。具体的には、防災グッズの選定に一ひねり入れる。皆が食べたい「おいしい食品」を防災食品にするのである。

 通例、避難訓練では、防災グッズの場所確認や、賞味期限の切れた防災食品の交換を行う。その際、いつもの乾パンではなく皆が食べたい物にしたら職員全員が積極的に集まるのではないかと考えたのだ。確かに、乾パンは防災食品の定番だが、私が子どもの頃からまったく進化していない。さらに乾パンには、災害に遭遇して打ちひしがれている時に食べるという、ネガティブなイメージが付いている。そこで、この点を逆手に取るのだ。

 たとえば、乾パンの代わりに賞味期限の長いブランドチョコレートを選ぶ。そして避難訓練後の打ち上げで、期限切れ間近のチョコをみんなで食べてしまう。こうすれば避難訓練は一転、楽しい「防災パーティー」に変身するのである。

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 そして防災食品を選ぶ権限を持つのは、もちろん今年の防災担当者である。彼(または彼女)は「今年は●●でいこう」と自分の好きな食品を選ぶ。こういうシステムにすると、社員はみな防災担当者になりたがるので一石三鳥だ。題して「おいしい防災」。

写真はイメージ ©iStock 

「脅しの防災」から「明るい防災」へ

 講演会でこの話をすると、とても受けが良いので、この案が実際に可能かどうか、私は食品メーカーを当たってみた。その結果、株式会社ショコラティエ・エリカ(港区白金台)から興味深い実験結果を教えてもらった。同社はカカオと砂糖のみからなるチョコレート(賞味期限6ヶ月)を長期保存した場合にどうなるか、実験を行った。

 温度20度前後、湿度50%前後という条件で7年保管したチョコレートは、食べることにまったく問題なかったのである。神田光教・同社社長はこう語った。「防災食品として十分に評価できるものでした。唯一の問題は、毎年同じチョコレートでは飽きる点でしょうね」。しかし、その点は問題ない。アウトドアで利用する人も多いアルファ米(水やお湯を入れるとご飯になる)やドライフルーツなど、チョコレート以外にも長期保存が利く食べ物はあるからだ。今年の防災担当者は、自分の一番好きなジャンルの防災食品を楽しく選べばいいのである。

 ここでのポイントは、地震防災を暗いイメージにしないことである。ちょっとした工夫で、防災は未来へ開いた明るい行動となる。「防災パーティー」を楽しく行えば、他部署の職員とのコミュニケーションも生まれるだろう。

 私も含めて地球科学者の全員が反省すべき点だが、これまでの地震防災はどうしても「脅しの防災」になりがちだった。ここを反省して、皆が行動したくなるような「おいしい防災」を提案した。講演会でこの話題を入れるようになってから、会場を出る聴衆の皆さんの顔が格段に明るくなったのである。