“リアルな学校”さながらの撮影現場

 橋本陽斗役の味元耀大くんは、もともと唯士役でオーディションに参加していた子でした。オーディションの最終日まで、唯士、心愛、陽斗役はそれぞれ4人ずつ残していたのですが、組み合わせを変えてそれぞれの役を見た時に、嶋田くんの唯士、瑠璃ちゃんの心愛、耀大くんの陽斗がいちばんしっくりきたので、この3人に決めました。

 耀大くんは憑依型というか天才的な演技力があるので、正直、唯士も陽斗も両方できたかもしれない。でも嶋田くんの唯士は、この年齢の瞬間を切り取った唯一無二のキャラクターが生み出せた。まさに奇跡の組み合わせだったと思っています。

©︎2025「ふつうの子ども」製作委員会

──子どもたちとの撮影は大変だったのでは。

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 大変でしたよ(笑)。撮影は子どもたちが夏休みの7月末から8月にかけて行ったのですが、まず暑い。緑が綺麗だったので、なるべく緑も画に入れたいと思う一方、外ロケが多くなると子どもたちの体調管理が心配になるので、スタッフ総出で熱中症対策をしながら撮影を進めました。

 そして、人数が多い。30人クラスに一人不登校の子がいる設定で、29人の子どもたちを集めたのですが、子役に慣れているような子を選ばなかったので、もう収拾がつかなくて……。あっちで喧嘩が起これば、こっちで小競り合いが起こるというように、ある意味、リアルな学校のようでした。なぜか私、「先生」なんて呼ばれて(笑)。カットがかかるたびに「先生~、あの子が叩いてくる~」などと報告を受けていました。助監督さんも大声を出しすぎて、最後は声がかすれていましたが、毎日お祭りの準備をしているようで楽しかったです。

©︎2025「ふつうの子ども」製作委員会

──とはいえ、子どもたちのありのままをただ映すと、ドキュメンタリーになってしまうのでコントロールは必要ですよね。

 確かに、子どもの世界をただリアルに描くだけならドキュメンタリーでいいですよね。ですから、イマドキの子どもたちを忠実に表現することにはこだわりましたが、リアリズムは追求していません。リアルな子どもの世界を描いているのに、そこに我が子の姿や、かつて子どもだった自分が重なったり、さらに子どもの世界なのに大人の社会が垣間見えたりする。そんな感覚を味わっていただけることを狙いました。

©︎2025「ふつうの子ども」製作委員会

 たとえば、主役の3人が徐々に暴走していく姿には、1960~70年代の学生運動や連合赤軍の事件も重ねました。最初は3人とも同じ志をもっているのですが、だんだん温度差が出てくる。さらに親の目、先生の目、世間の目が気になり、気持ちが乖離していく。それは子どもに限らず、大人の世界でも同じことです。気持ちが離れていく過程を丁寧に積み上げていくことで、リアルさを表現できたと思います。