「犯行は家族を侮辱され、自宅で飲んだ水を吐き出すように強要され、積もりに積もった怒りが爆発したもので、殺人という選択肢しか残っていなかったという理解もできる」「ただし、殺人という行為は重大で、刑を酌量するにも限界がある」

 2011年にDVなどを理由に恋人を殺害した19歳男性。冒頭のように裁判長も同情した驚きの被害内容とは? 我が子を無惨に殺された親、学生時代ひどいイジメに遭った者などが仕返しを果たした国内外の事件を取り上げた新刊『世界で起きた戦慄の復讐劇35』(鉄人社)から一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/続きを読む)

写真はイメージ ©getty

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19歳男性はなぜ恋人を殺害したのか?

 2011年9月19日、宮城県蔵王町遠刈田温泉の人気のない山林でキノコ採りをしていた男性が、下顎のない頭蓋骨を発見した。通報を受けた警察が現場を捜索したところ、翌20日に周辺からほぼ1体分の人骨が見つかる。

 遺体は完全に白骨化していたが、歯の治療痕やDNA鑑定の結果から、遺体の身元は同県柴田町に住む無職の大槻恵美さん(当時27歳)であると判明。死体遺棄事件として捜査を開始した警察は、ほどなく恵美さんの交際相手だった男性Y(同19歳)を殺人及び死体遺棄罪で逮捕する。

 取り調べに対してYは被害者の異常なまでの束縛・監視から逃れるために犯行に及んだと供述。後の裁判で、裁判長は「殺人という選択肢も理解できる」と異例の言葉を口にした。

 Yは高校卒業後、地元である宮城県蔵王町のホテルで働いていた。フロントでの接客などをこなし、職場では真面目で明るく人気があったという。一方の恵美さんは資産家の娘で、同県大河原町の小・中学校を卒業後、仙台にある私立高校の生活文化コースに進学。周囲には「将来は日本舞踊の名取になりたい」と語っていたが、卒業後は家庭教師などのアルバイトをしながら資格取得の勉強に励み、2008年ごろから柴田町のアパートで一人暮らしを続けていた。彼女を知る友人によれば、化粧っ気はなかったものの顔立ちの整った細面の美人で、気が強く自分の考えを決して曲げない勝ち気な女性だったそうだ。

 そんな2人が出会ったきっかけは出会い系サイトだ。Yは仕事に慣れてきた2010年の夏ごろから彼女欲しさに頻繁にサイトを利用、同年12月に恵美さんと知り合い、翌2011年元旦から交際が始まる。ちなみに、このとき恵美さんはYに実際の年齢より3歳若い24歳と伝えていた。