埼玉医科大総合医療センターの岡秀昭教授(50)は、コロナ禍の医療現場の状況を伝えるため、病院の要請でメディア出演やSNSでの情報発信を始めた。しかし、そのことがきっかけで無数の誹謗中傷に苦しめられることになった。

「メディアの人間じゃないですから、そういう状況になってみるまでわかりませんでした」と岡教授は当時を振り返る。

 コロナ禍の初期、同センターは埼玉県でいち早くコロナ患者を受け入れた病院であり、軽症者から重症者まですべての患者が運ばれてきた。メディアの取材も集中し、岡教授はX(旧Twitter)を活用して現場の状況を伝え始めた。

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 岡秀昭教授 ©文藝春秋

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「学歴や社会的ステータスが高い人間もいる」誹謗中傷をする人たちの素性

「1日に40~50件、トータルでは5000件は超える誹謗中傷を受けました」と岡教授は言う。最初は「コロナはただの風邪だ」「陰謀だ」といった内容が多かったが、ワクチンが普及し始めると反ワクチンを掲げる人たちからの中傷が激しくなっていった。

 岡教授が驚いたのは、誹謗中傷をする人たちの素性だった。

「僕が訴えた相手で、いわゆる『無敵の人』はまだひとりだけです」と岡教授は明かす。

「元大手メーカーの研究員だった人や、反ワクチンの弁護士、医者だっている。学歴や社会的ステータスが高い人も、少なからずいるんです」

 

「家に火をつけてやる」「おまえの家に遊びに行ってやる」と脅迫も

 誹謗中傷は岡教授個人にとどまらず、家族にまで及んだ。2022年春、家族旅行中に撮った写真がSNSから無断で転載され、妻の容姿まで侮辱される事態に発展。住所も特定され、「家に火をつけてやる」「おまえの家に遊びに行ってやる」といった脅迫まで受けた。

「妻も『早く終わらせてくれ』と。子どもたちが学校でいじめられるんじゃないかと心配もしていました」

 警察に相談しても、「お宅、これで3回目ですよね。先生のほうで自衛してください」と言われるだけだった。やむを得ず、岡教授は自ら開示請求と損害賠償請求に踏み切った。

「発信者情報開示請求は、警察はやってくれない。『ご自身で弁護士を立ててやってください』と。自分で費用をかけて相手を突き止めないと、刑事事件にすらならない。この国のシステムは、おかしいですよ」

「不毛な誹謗中傷との戦いを有毛に変える」慰謝料で増毛したワケ

 開示請求には1人あたり80万~100万円の費用がかかるという。誹謗中傷の中で最も多かったのが容姿、特に「ハゲ」など髪の毛に関するものだった岡教授は、「不毛な誹謗中傷との戦いを有毛に変える」と宣言。相手からの慰謝料で増毛することにした。

増毛前の岡秀昭教授(写真=埼玉医科大学総合医療センター提供)

「訴えている相手とのやりとりで、『そんなに訴訟を起して赤字なんじゃないか?』と言われたので、『おまえから取った慰謝料で増毛してやる』と言い返したんです」

 これまで増毛に使った費用は約150万円。すべて慰謝料や示談金でまかなえているという。

「これは勝利のたびにタトゥーを刻むような感覚です。勝訴や示談が成立するたびに、そのお金で髪を増やしていく。不毛な戦いに、物理的に『毛』という果実をもたらしてやろうと」

 岡教授は今後、SNSプラットフォーム事業者への規制強化など、法改正による根本的な解決を求めていくという。

増毛後は快適な生活を送っているという

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