先制されてもひっくり返す精神力
ロシアW杯で世界のサッカーファンを驚かせているのが、クロアチアの選手達の「あきらめない精神力」だ。決勝トーナメント1回戦のデンマーク戦では、延長116分にモドリッチが決勝点となるはずのPKを失敗。しかし、PK戦で彼は再びキッカーとして立ち、失敗にひるむことなくシュートをねじ込んだ。準々決勝のロシア戦では89分にGKダニエル・スバシッチが右太ももを負傷しながらピッチに立ち続け、追い越し追いつかれの延長戦を経た上のPK戦でけりをつけた。どちらも相手に先制点を与えてから、ひっくり返したゲームだ。
グループリーグのアルゼンチン戦(3ー0で勝利)の記憶が霞むほど、「クロアチアにとって最高のゲーム」とズラトコ・ダリッチ監督が手放しで絶賛したのが、準決勝のイングランド戦だ。度重なる延長戦で疲労困憊のクロアチアは、開始5分に相手FKであっさりノックダウンされたにもかかわらず、後半に息を吹き返して同点に追いつくとイングランドを手数で圧倒。延長109分、倒れても倒されても何度も立ち上がる「不屈の男」、FWマリオ・マンジュキッチが脚の止まった相手DFを出し抜いての決勝ゴールで「サッカーの母国」を叩きのめした。
少年だったマンジュキッチの最初のコーチで、彼を5年間指導してきたダミール・ルヘク氏はこう振り返る。
「彼は11歳の時、『クーパーテスト』(12分間走)で3350mを走ったんだ。今でも多くの人がその数字を信じてくれないんだけどね。彼の魅力は、その根性とあきらめない心だった。試合でもトレーニングでも常に100%を出していたんだ」
世界を驚かせてきたのはサッカーだけではない
男子バスケットボールのバルセロナ五輪の銀メダル(1992年)、サッカーのフランスW杯の初出場3位(1998年)、テニスのゴラン・イヴァニシェヴィッチのウィンブルドン制覇(2001年)、アルペンスキーのヤニツァ・コステリッチのソルトレイクシティ五輪三冠(2002年)、男子ハンドボールの世界選手権優勝(2003年)、テニスのデビスカップ優勝(2005年)、格闘家ミルコ・クロコップのPRIDE制覇(2006年)など……、1991年の建国以来、クロアチアはあらゆるスポーツで世界に爪痕を残してきた。そのたびに国民は選手達の頑張りに涙し、人口450万人の小国が世界に名を馳せたことを誇りに感じてきた。
イングランド戦に勝利した直後のモドリッチは、国営テレビのインタビューで興奮した面持ちでこう語っている。
「僕たちは幸せと思っても誇りに思ってもいいじゃないか。これはクロアチア・スポーツ界の歴史における最大の成功だ。でも、ここで立ち止まるつもりはないよ」
決勝戦の相手は、奇しくも20年前のW杯準決勝で破れたフランス。3試合連続で120分を戦い、さらに1日休みが短いクロアチアの劣勢が予想されているが、それでも選手達は悲願の初優勝を信じ、最後の1分まで勝負をあきらめることなくピッチを走り続けるだろう。そのファイティングスピリットが「神が授けた才能」であるにしろないにしろ、観ている者たちの胸を打つのは間違いない。