連戦連勝の指導者に大きな異変

「ロシアによる侵攻以来、国際世論を操るPR情報戦に打って出て、世界を味方につけてきたウクライナの指導者に大きな異変が起きている」

 そう指摘するのは、元NHKチーフプロデューサーで、ノンフィクション作家の高木徹氏だ。

 アメリカのトランプ大統領と8月18日に会談したウクライナのゼレンスキー大統領。トランプ大統領の仲介で、ロシアのプーチン大統領との2国間の首脳会談が実現するのかが今後の焦点だ。

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トランプ大統領と会談するゼレンスキー(8月18日) ©時事通信社

 そんな中、ゼレンスキー大統領の「PR戦略」が2025年に入って急速に効果を失っている実態について、高木氏は月刊「文藝春秋」10月号に寄稿した。

 著書『ドキュメント 戦争広告代理店』(講談社文庫)で、旧ユーゴスラビアにおけるボスニア紛争(1992―95)において、「戦場の銃弾より情報戦が優れた武器となる」現代の戦争の本質を取材した高木氏。同作で講談社ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞をW受賞している。その後も、情報戦の変化を取材してきた。

高木氏の著書『戦争広告代理店』(講談社文庫)

PR理論の中心に存在する「三角形」

 高木氏は、「戦争広告代理店」のPR理論の中心には「三角形」が存在することを指摘する。

〈世論操作の主要な3種類のキャラクターであり、「演者」と「演出者」そして「敵」の関係性で作戦が遂行される。

「演者」とは、雄弁に自国の悲劇を語り、優れた表現力や目を引く外見でメディアの寵児になる国家指導者や外相、スポークスマンなどだ。

「演出者」はPRのプロで、カメラの前でどう話すかなどあらゆる表現のテクニックを伝授し、そのネットワークを駆使して「演者」をメディアに露出させる。

 そして、そこで発信するメッセージにおいて「敵」を設定し、「現代のヒトラーだ」などと悪魔化してその人物を攻撃するなど手練手管を用いて一般の人々の心に強い印象を与えていく〉