6月1日、衝撃的な映像がSNS上を駆け巡った。ロシアの4ヶ所の空軍基地が同時にドローン攻撃を受け、多くの爆撃機が炎上する映像だ。

 間もなくこれは、ウクライナ保安庁(SBU)によるスパイダーウェブ(蜘蛛の巣)作戦であること、Tu-95、Tu-22M3、Tu-160といった爆撃機、空中早期警戒機A-50を含む、41機のロシア空軍機に損害を与えたことが発表されたのだ。

 ウクライナが主張する41機という数字はそのまま受け取れないが、公開された映像や衛星写真等から相当数が被害を受けたとみて間違いない。いずれも高い価値を持つ航空機で、前線であるウクライナより遥かに離れた基地(最も遠いベラヤ空軍基地までウクライナから4000km以上ある)に駐機されていただけに、世界の軍事関係者に大きな衝撃をもたらしている。

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 本稿では、現在まで分かっている作戦の詳細とその影響、作戦を実行したSBUとはどういう組織かを記したいと思う。

ドローン攻撃により爆発炎上するTu-95(SBU公式Xより)

 今回の攻撃手法については、ロシア国内の拠点へFPVドローンを密輸し、ドローンを格納した木箱をトラックに積み込み、攻撃目標近くで屋根を遠隔で開き、そこからドローンを発進させ攻撃したことが明らかになっている。駐車したトラックから、ドローンが発進していく映像がSNS上で出回っている。

 これまでもウクライナはたびたびモスクワに数百機の大規模な遠距離ドローン攻撃を行っているが、ロシア側の発表ではそのほとんどが撃墜されている。実際に大きな戦果は確認されていないことから、ロシアがほぼ撃墜したことは事実だろう。

潜入工作につきものの工作要員の死者や逮捕者も出ていない?

 しかし、今回の攻撃では、近距離しか飛行できない小型の電動クアッドコプターを目標近くまで偽装工作により運搬することで、ロシアの防空網を回避して攻撃するという、従来の潜入破壊工作にドローンを組み合わせた形で実施されたことが特徴といえる。しかも、この手の潜入工作につきものの工作要員の死者や逮捕者も、今のところ報じられていない。

 今回の攻撃で映像から損害を確認できるものの多くは、長距離爆撃機Tu-95と超音速爆撃機Tu-22M3だ。これらはウクライナへの巡航ミサイル攻撃の発射プラットフォームでもあり、遠距離から巡航ミサイル攻撃を仕掛けてくるため、ウクライナにとっては撃墜が困難な機体でもあった。

 爆撃機に突入するドローンの映像には、Kh-101巡航ミサイルを機体外部に搭載したTu-95が確認できる。破壊されなければ、ウクライナへの爆撃に出撃したかもしれない。また、Tu-22M3が搭載するKh-22超音速巡航ミサイルは、超音速であるためウクライナが迎撃困難なミサイルでもあった。

破壊されたものと同じTu-22M3(筆者撮影)
超音速巡航ミサイルKh-22(筆者撮影)

 ロシアは爆撃機の他にも様々な巡航ミサイル発射プラットフォームを保有しており、今回の攻撃が与えるウクライナへの巡航ミサイル攻撃の影響は限定的かもしれない。しかし、これまでウクライナが手も足も出なかった爆撃機を大量に破壊したことで、ロシアに安全な後方地域が存在しないと知らしめたことは大きいだろう。