米ウォール・ストリート・ジャーナル紙の報道によれば、使用されたドローンはウクライナ国産のクアッドコプター「Osa」で、製造元のファーストコンタクト社のサイトによれば、最大3.3kgの物資を搭載でき、最大8kmの戦闘行動半径(軍用機が目的地まで往復できる距離)を持つとされる。
ドローンが飛び立つ様子を撮影したSNS上の映像から、オレニヤ空軍基地を攻撃したドローンの発進地と思われるガソリンスタンドを特定した筆者は、発進地から基地までの距離を計測したところ直線距離で最短6.25km。帰還を前提としない片道なら、対戦車ロケット弾頭を抱えて基地内のどこでも攻撃可能だろう。
これまで、ウクライナの遠距離ドローン攻撃では、衛星通信のスターリンクを通信に使うことが多かった。今回のOsaは民間の携帯電話の通信網で操縦しており、携帯の電波がカバーしている場所なら操縦できる。
だが、ロシアは攻撃を察知したら携帯の通信を遮断できる。そのために今回の攻撃では、オープンソースで開発されている無料の自動操縦ソフトArduPilotが使われていることが明らかになっている。これで通信が途切れても、GPSが受信できれば自動操縦が可能だ。このソフトはこれまでもウクライナで利用されてきたが、今回の大規模な攻撃で注目が集まっている。
ソ連時代のKGBを引き継いだので親ロシア派が多く潜んでいたが…
では、この作戦を実施したSBUはどのような組織なのだろうか。SBUはソ連崩壊とウクライナの独立によって、ウクライナにあったソ連の国家保安委員会(KGB)組織を引き継ぎ、ウクライナの情報機関SBUとして設置されている。
しかし、KGBの一部だったという歴史的経緯もあり、SBU内部には多くの親ロシア派が根付いていた状態であった。それが大きく問題になったのは、2014年に発生したクリミア危機とそれに続くドンバス紛争である。例えば、ドンバスにいたSBUの特殊部隊アルファの指揮官が親ロ勢力ドネツク人民共和国(DNR)に寝返り、DNRでボストーク大隊を組織するなどの不祥事が発生した。
このようにロシアに浸透されたSBUの改革は必須で、ゼレンスキー大統領も2019年に就任すると、自身の幼馴染でビジネスパートナーであったイワン・バカノフをSBU長官に任命して改革に取り組んできた。
だが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻開始から間もない3月3日にドニエプル川北岸の都市ヘルソンが陥落しているが、これはヘルソンのSBU局長が命令に反して部下に撤退を指示するなどサボタージュしたことや、SBUがドニエプル川に架かるアントノフスキー橋を破壊しなかったことが原因とされている。
結局、2022年にロシアによる侵攻を受けるまで、SBU内の「掃除」は完了していなかったことになる。バカノフも開戦から早々に長官職を解かれた。
このように開戦冒頭で大きな失点を喫したSBUだったが、今回の蜘蛛の巣作戦で驚いたのは、報じられている1年半にも及ぶ準備期間を経た大作戦であっても、ロシアに情報が漏れることなくSBUが成功させたことだ。SBU内部のロシア内通者の排除・隔離がだいぶ進んだのかもしれない。
