しかし、今回の攻撃が様々な問題を抱えているのも事実だ。例えば、ドローンを発進地まで輸送したトラックドライバーは、全く作戦のことを知らされていなかった民間人ドライバーだと報じられている。
2022年10月に今回と同じくSBUが行ったクリミア大橋爆破でも同じように、爆発物を運んでいたのは何も知らされていなかったロシア人ドライバーであった。無関係の民間人を攻撃の駒にする手法は、大きな問題を孕んでいる。
また、前述のArduPilotは、ソフトウェア開発に関わる倫理的な基準を定めた開発者行動規範の中で、ArduPilotを使ったシステムの武器化を故意に支援・助長することを禁止している。戦時の劣勢な側であることから批判の声は大きくないとはいえ、開発コミュニティの規範を破っての使用はオープンソースの精神に背くものだ。
軍高官や軍事ブロガーの暗殺にも関与? どこまで大目に見るのか
SBUは現在も荒っぽく、血なまぐさい工作を実施している。ロシア国内で相次ぐ軍高官、軍事技術者、極右思想家、軍事ブロガーの暗殺事件(未遂含む)はSBUの関与が疑われている。民間人を巻き込んだ工作は、戦時であるから支援国は大目にみているところもあるが、戦後にウクライナが自由主義国家陣営に加わる際、より一層の遵法精神の確立と、民主的統制が求められるかもしれない。
蜘蛛の巣作戦についてまとめると、様々な手法を独創的に組み合わせた攻撃手法といえるだろう。古典的な潜入破壊工作にドローンやオープンソースソフトウェアといった新しい要素を組み合わせ、要した費用に比べて大きな成果をもたらした。
一方で、同じ手法は今後は通用しにくくなるだろう。それが分かっていたからこそ、SBUは同時多発的に一気に攻撃を実施し、その後に手口も含めて公開したのだろう。しかし、これまで距離によって担保していた安全性を脅かす前例が出たことは、ロシアのみならず世界の安全保障関係者にとっては頭の痛い問題になるだろう。
戦争というものは、人対人の争いである。一方が取った手を受けて、もう一方も手を変えてくる相互作用が延々と続いていく。今回の蜘蛛の巣作戦は、創造性が戦争に与える影響をまざまざと見せつける一例なのかもしれない。
