「退陣の号外が出たじゃないですか。そのときも僕は電話取材したんだけどやっぱり『一言も自分は言ってない』と。『ひっ・と・こっと・っも』と力が入っている」

「政府幹部」など周辺に愚痴をこぼしていたのでは?

 これはテレビでも披露した鈴木さんの証言である。では読売新聞の「複数の政府・与党幹部が明らかにした」(7月24日)というのは何だったのか?

 鈴木さん曰く「石破氏のキャラクターに要因があるのでは?」と。石破氏は昔から愚痴が多い人だという。長く取材をしていると、かなり落ち込んでグチる姿を平気で見せる時があるという。しかし翌日になるとケロッとしている。なので今回も普通に「政府幹部」など周辺に愚痴をこぼしていたのでは?と。

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 たとえば「政府幹部」には首相秘書官がいる。中央省庁からの派遣であり、石破氏のキャラを知らない人も多い。そういう人が選挙後に石破氏がグチっているのを耳にしたら……。深刻だと受け止めて新聞記者に伝えてしまうかもしれない。

 実は鈴木さんと同じ見解を述べる他の記者の言葉も私は聞いていた。「石破さんてグチが多い人なんですよねぇ」と。「現場から上がってきたメモの字面だけを見ると深刻な内容になる。でもそのニュアンスをどう解釈するかが政治部の仕事なんですよ」と。いやぁ面白い。7月の石破退陣報道は単なる愚痴だった説、である。

 ここで読売の検証報道に戻ろう。号外で退陣を伝えたのにはきっかけがあった。首相は関税交渉で合意が実現すれば退陣する意向だと“情報をつかんでいた”からだ。

 するとトランプ米大統領が22日(日本時間23日)、SNSで日本と関税交渉に合意に達したことを発表した。となると石破続投の理由が消えると読売は考えた。

 このあたりはどうなのか? 再び鈴木哲夫さんに聞くと、鈴木さんは参院選の開票翌日(7月21日)にも直接石破首相に取材していた。辞任するのかズバリ尋ねたら首相は「関税の日米協議を最後までやり遂げるまでは続ける」と述べた。

 ポイントなのは「合意」ではなく「最後まで」だ。対米輸出品目は4000を超える。これを調整するまでなら、すぐには辞めないという宣言にもなる。実際に石破首相は7月23日午後に「日米が合意したが、対米輸出品目は4000を超え、それぞれを取り扱っている会社や事業者にとっては極めて重大な問題だ。合意が確実に実行されるよう、きちんとこたえていくことは非常に大事だ」と記者団に述べている。

 読売新聞は「合意」したら退陣と考えていたようだが、当時の首相本人に聞くと意味は違った可能性があるのだ。