商売を成り立たせるうえで売上は重要な要素の一つに違いないが、それを一番の目的にしているとビジネスは破綻する。そう語るのはキーエンス出身でさまざまな営業、マネジメントに携わってきた鈴木眞理氏だ。
ここでは、同氏の著書『仮説起点の営業論 キーエンスに学び、磨いたセールス・スキル』(角川新書)の一部を抜粋し、、変わり続ける社会の中で求められる営業の価値について紹介する。(全2回の2回目/はじめから読む)
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「売上」を一番の目的にしてはいけない
売上を伸ばすことは企業にとって重要です。売上がなければ、プロダクトの機能向上に投資することができず、顧客に届ける価値を大きくしていくことができません。
しかし、売上を一番の目的、目標にしてしまうとビジネスは破綻します。
売上という数字を一番の目的にしてしまうと、顧客に届ける価値を増やすことに時間を使うより、数字の上がりやすい顧客を担当すること、そのための社内政治に時間を使うことのほうが、個人の売上を伸ばすのに短期的には効果が大きくなります。また、すでに契約をいただいた顧客をないがしろにしてでも新規提案にリソースを割り振ったほうが成果が上がることになります。
ところが、このような売上の上げ方は長期的には維持できません。個人としては成果を維持できることもありますが、そのシワ寄せを別の個人が負担しているので、組織としてはどこかで綻びがでます。売上という指標は大事ですが、その売上が顧客へのどのような提供価値から発生しているのかを考える必要があるのです。
そして、これは近年さらに重要性を増してきています。
この10年でサブスクリプションで提供されるサービスやプロダクトが大きく増えました。サブスクリプションは初期費用を抑えられ、不用になっても解約すれば費用がかからなくなることから、買い切りのプロダクトと比べて優位性があり、今後も増えていくと思います。
このサブスクリプションにおいては、すぐ解約されてしまってはコストが回収できないため、取引を開始してから終了するまでの期間に自社に対してもたらした利益の総額であるLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)が重視されます。
そして、サブスクリプションのプロダクトは「うまい営業トークだけ」で契約に至ったとしても、提供価値が見合わなければすぐ解約されてしまいます。顧客の負担する費用に見合った本質的な価値を提供しなければ想定していたLTVを得ることができず、コストが回収できないという特徴があるのです。
