2006年に女優の瀬川寿子さんと結婚し、10歳になる長女がいる中村梅雀さんは、こう語る。

中村梅雀さん

「男女や夫婦って、出会って、恋に落ちて、結婚して、それまで知らなかった相手の真実を知って衝撃を受けたり葛藤したりしながら変化していきますでしょう。そして子供ができて、子育ての大変さに翻弄されながらも目を瞠る成長に驚き、やがて成長して巣立っていく。

 でも、もし、そこでどちらかが病に襲われたら……僕の場合、妻は25歳年下ですので、当然自分の方が先に死ぬと思っているんですね。もし彼女が先に逝ってしまったらどうしようかと思うと、たまらなくなります。

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 でも、このお二人はどんな時も、短歌という手段で、正直に、心の奥底まで赤裸々に歌い合ってきた。短歌というものが、ここまでリアルな説得力を持つことに驚きました。短歌から漂ってくる色、空気の匂い、温度、時にドキッとするような凄まじい情念を、しっかりお客さまに届けたいと思っています」

夫婦間の不信やすれ違い、孤独さえもすべてさらけ出して歌にしてきた

 永田さんと河野さんの出会いの場所は京都大学のキャンパスにあった「楽友会館」。「幻想派」という同人誌創刊のための歌会であった。

 たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか (河野裕子)

 きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり (永田和宏)

若き日のふたり(写真提供:永田和宏)

 まるで神経が剥き出しになっているような鋭すぎる感受性に苦しむこともあった河野さんを永田さんは守ったが、一方で、母を知らない永田さんを河野さんは「真ん中がない、ドーナツのような人」と思ったという。のちに、河野さんは「私がしなければならないことは、永田和宏という人を一日でも長生きさせること」と語っている。

 歌人夫婦となったふたりは、瑞々しい若き日の恋愛、貧しい中での無我夢中の子育てや子供たちへの溢れるほどの愛情、夫婦間の不信やすれ違い、どうしようもない孤独さえもすべてさらけ出して歌にしてきた。

 君を打ち子を打ち灼けるごとき掌よざんざんばらんと髪とき眠る

 子がわれかわれが子なのかわからぬまで子を抱き湯に入り子を抱き眠る 

 もう少しあなたの傍らに眠りたい、死ぬまへに螢みたいに私は言はう

(河野裕子)

 用のなき電話は君の鬱のとき雨の夜更けをもう帰るべし

 つまらなそうに小さな石を蹴りながら橋を渡りてくる妻が見ゆ

「この家にあなたは住んでいない」と不意にしずかな声に言いたり

(永田和宏)