この世はこんなに明るく美しい場所だったのか
やがて、時は過ぎ、2000年、何気なく左の脇を触った河野さんは、卵大のしこりが三つあることに気く。乳腺外来でまっ黒いリンパ節が三つ映ったマンモグラフィーを見せられ、医師から悪性であると告げられる。
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「診察を終えて病院の横の路上を歩いていると向こうから永田がやってきた。彼とは三十年以上暮らしてきたが、私を見るあんな表情は初めて見た。痛ましいものを見る人の目。この世を隔たった者を見る目だった。そのときの歌。
何といふ顔をしてわれを見るものか私はここよ吊り橋ぢやない
永田と別れて、鴨川沿いの道を運転して帰ったが、涙が溢れてしかたなかった。私の人生の残り時間はあとどれくらい残っているのだろう。それまでに出来る仕事のことを考えずにはいられなかった。きらきら光る鴨川の水面が美しい。出町柳界隈を、いつものように歩いたり、自転車に乗って行き過ぎる学生達がまぶしい程若くいきいきと見えた。この世はこんなに明るく美しい場所だったのか。何故このことに今まで気づかなかったのだろう。かなしかった。かなしい以上に生きたいと思った」
──河野裕子「癌を病んで」より
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あの時の壊れたわたしを抱きしめてあなたは泣いた泣くよりなくて (河野裕子)
「私が死んだらあなたは風呂で溺死する」そうだろうきっと酒に溺れて(永田和宏)
短歌が綺麗ごとではなく、生きて躍り上がってくるように
上演台本と演出を担当するのは、浅野さんと梅雀さんが全幅の信頼を寄せる星田良子さん。「短歌を綺麗ごとの言葉ではなく、ふつふつと言葉が浮き上がってくる、生きて躍り上がってくるように」(梅雀さん)演出指導をする星田さんは、ギャラクシー選奨を受賞した梅雀さん主演のドラマ『指先で紡ぐ愛』の演出家でもある。その時、まだ結婚前だった梅雀さんは、今の妻と「こんな凄い現場はない」と語り合ったという。
音楽は、音楽博士として幅広く活動する中村匡宏さんが作品のために書き下ろし、西尾周祐さん(ピアノ)、 中西哲人さん(チェロ)が二人の四十年の音色を奏でる。
ミュージカルなどで活躍中の加藤和樹さんが歌う挿入歌「この涙 君のもの」も解禁になった。一時間四十分に凝縮された夫妻の四十年が美しい旋律と共に体感できる舞台である。
一日に何度も笑ふ笑ひ声と笑ひ顔を君に残すため (河野裕子)
一日が過ぎれば一日減つてゆく君との時間 もうすぐ夏至だ (永田和宏)
INFORMATION
公演情報
朗読劇『たとへば君 四十年の恋歌』
日程:2025年9月17日(水)~9月20日(土)
会場:新国立劇場 小劇場
原作:『たとへば君 四十年の恋歌』(河野裕子・永田和宏 著 文春文庫)
上演台本・演出:星田良子
音楽:中村匡宏
企画協力:文藝春秋
製作:アーティストジャパン
出演:浅野ゆう子、中村梅雀
演奏:西尾周祐(ピアノ)、中西哲人(チェロ)
挿入歌 歌唱:加藤和樹
料金:S席 8,000円 A席 7,000円(税込・全席指定)
お問合せ:アーティストジャパン 03-6820-3500
https://artistjapan.co.jp/
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