「高野連は調査機関ではない」

 2月に学校は広島県高野連に報告。3月、日本高野連はA君が受けた暴力事件を認め、野球部に対して、「厳重注意」を決定。加害生徒らには1カ月の公式戦出場停止処分が下った。

 だが、父親からすれば、それで終わりのはずがない。

「監督の発言はパワハラ以外の何ものでもありません」(A君の父親)

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 しかし、中井監督の暴言はパワハラ認定されていない。

出場辞退について記者会見する広陵の堀正和校長 Ⓒ時事通信社

 そこで、6月に一家は広島県警に被害届を提出する。さらに、疑問を持つA君の父親は、学校が広島県高野連に提出した報告書の内容開示を求めたところ、「高野連は調査機関ではない」と回答を拒否された。このままではらちが明かないと、PL学園野球部の廃部問題や高校野球が抱える闇を取材してきた私を頼ったのである。

 関西地方に生まれたA君は、中学時代は硬式野球に励み、進路が注目される有望選手となった。地元に残るか県外にいくか、逡巡の末、所属チームの監督が勧めてくれた広島の名門への進学を決断する。入部当初は投手志望だったが、スイングスピードが惇一部長の目にとまり、昨年12月に1年生ながらAチームに昇格。野手に専念することにした矢先に事件に巻き込まれ、在籍1年弱で広島を去ることになった。

 息子と苦悩を共有する父親の告白を聞きながら、これが公になれば大騒動に発展するであろうことは容易に想像できた。広陵はこの夏の広島大会を制し、3年連続26回目の甲子園出場を決めていた。屈指の伝統校で起きた部内暴力や甲子園通算40勝を誇る中井監督のパワハラが白日の下にさらされれば、出場辞退も免れないかもしれない。

高校球児たちの聖地、甲子園球場 Ⓒ時事通信社

 中井氏は1990年の監督就任以来、春優勝2回、夏準優勝2回の実績を誇り、元巨人の二岡智宏を筆頭に、約30人もの教え子をプロに送り出したベテラン監督だ。小林誠司(巨人)、佐野恵太(横浜DeNA)、有原航平(福岡ソフトバンク)らが現役でプレーしている。さらに同氏は副校長にして理事であり、学校の運営に多大な影響力を持つ。

 集団暴行に遭った被害者とはいえ、甲子園開幕直前のタイミングで広陵と中井監督を告発すれば、A君と保護者に誹謗中傷が集まることもあり得る。その覚悟はありますか――。私はA君の父親に問うて、一度、電話を切った。

 翌8月2日、事態は予想外の方向に向かう。A君の母親による《息子が高校野球名門校で、集団暴行を受けました。やっとの思いで転校できましたが、学校側、監督、保護者からの正式な謝罪など一切ありません》との投稿がSNSで注目を集めた。学校名は伏せられていたが、インフルエンサーたちによって拡散され、広陵野球部が大炎上したのだ。

※本記事の全文(約7000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と、「文藝春秋」2025年10月号に掲載されています(柳川悠二「広陵高校野球部『堕ちた監督』」)。
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