「上限引き上げは法改正が不要で、閣議決定だけで変えられます。急ピッチで施行できるうえ、少数与党での政権運営の中、厳しい国会論争も避けられるとの打算もあった。つまり、『取りやすい』ところだったということです」(厚労省関係者)
選択的夫婦別姓も保守派に配慮して先送り
熟議をアピールしていた石破政権の実態だった。閣議決定は年の瀬で、この時点では批判的な報道も少なかったとある。
日刊ゲンダイは「医療費引き上げにがん患者の悲鳴 来年度予算案を見る限り、この政権は『国民の敵』」(2024年12月28日付)と報じていた。タブロイド紙ならではの嗅覚だったのだろう。
このあと患者ら当事者の反対で首相は引き上げを見送った。「わたしの判断が間違いだった」と国会で謝罪したのがせめてもの石破らしさか。
しかし「反・石破らしさ」はまだまだあった。就任前に「やらない理由がわからない」と前向きな姿勢を示していた選択的夫婦別姓も、実際に国会で議論が始まると自民党内の保守派に配慮して先送りした。
次の指摘にも注目したい。重要な政策決定は、国民有権者が目にすることはできない、自民の森山裕幹事長らによる与野党交渉の場で決まっていったとし、
《この間、石破氏は党首討論や委員会に積極的に出席したものの、就任前に訴えていた日米地位協定の改定などの持論は党内への配慮から議論を封印し、国会論戦が形骸化した一面も否定できない。》(朝日新聞9月10日)
数少ない石破らしさを思い出してみると…
選択的夫婦別姓に、日米地位協定の改定。そういえば就任前に言っていたっけ。日刊スポーツのコラム「政界地獄耳」は1月29日の時点で石破氏の「変節」に言及している。昨年の総選挙で「言ったこと全てを実現するのは民主主義政党がやることではない」と石破氏が公約ほごを正当化したことについて、「首相になるのが目的だからかと思うが」とあっさり書いていた。
石破氏は総裁選で負け続けてきた。もう終わったとすら言われていた。急に出番が回ってきたのは自民党に裏金問題が発覚したからだ。刷新感を狙って選ばれた。「勇気と真心をもって真実を語る」と石破氏は言ったが、派閥の政治資金パーティー裏金事件に関しては実態解明に消極的だった。逆に「らしさ」とは異なることを次々におこなった。
数少ない石破らしさを思い出してみると、森友事件の上告断念と公文書開示をしたことは特筆すべきだろう。全国戦没者追悼式の式辞で「反省」を入れたことも印象深い。ただ、最初から日程に入っている行事等で「らしさ」を出すことはできるが、自分から能動的に動いて持論を世に問うことはしなかった。常に保守派に配慮し、選挙が始まると参政党の後を追うようになった。思い入れがあるはずだった先の戦争の総括だが、「戦後80年談話」は3月の時点で保守派に配慮して早々にやめていた。