心が大きく動いたきっかけは…
――序盤から、ヴィンセントが関心を持つ小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の「露の一滴」の一節が、挿話とともに繰り返しインサートされます。さらに、ヴィンセントは滴の中に逆さまの似顔絵を描いた絵をプレゼントして商店街の人と交流を図っていきます。
南 外国の方で小泉八雲に興味を持っていらっしゃる方は結構いますよね。私も「知ってはいる」という程度でしたから、今回は映画のキーワードにもなっているので改めて読み返しました。
好きな絵を描いて差し上げる、という独特のコミュニケーションに彼の美意識が表れていると思いますし、天地が逆さまの絵は、西洋の方だから、ということとも違った彼自身の感性を感じました。
――椎名桔平さん演じる光一という、ハイスペックな友人以上恋人未満といった男性もいることはいますが……。
南 側から見るといろんないい条件が揃っていて、男女の仲が成立するんじゃないかと思われているけれど、美久子からすると幼馴染みの友人の一人。彼には友達以上の感情も、ときめきも感じていません。条件がいいだけでは、パートナーとしては受け入れ難かったんでしょう。
――ネタバレは避けますが、美久子もヴィンセントから絵をもらったことや、八雲が訪れた鎌倉や江ノ島を、二人で一緒にめぐることで関係に変化が起きますね。
南 あそこで美久子の心は完全に動きました。でも、何か一つの出来事がきっかけになったというよりは、それまで一つ屋根の下、同じ空間で過ごして互いを知っていった、その時間の積み重ねの結果だと思うんです。
「『あ~私とおんなじ』って思う人がいっぱいいると思います」
――50歳前後の女性のリアル、そして希望も感じられました。
南 中高年の悲哀というものが、かなり丁寧にコミカルに描かれているんじゃないかと思います。家でジャージを着ている美久子は、カウチで横になり、おせんべいを食べてテレビを見ている。その姿に「あ~私とおんなじ」って思う人がいっぱいいると思います(笑)。
ストレスやつらいこと、人それぞれたくさんあるけれど、やっぱり人間は毎日生きていかなくてはいけない。そういう日々の中で、ちょっとした心の変化を感じとってくれたり、共有できたりする相手がいるかいないかで、人生の色彩はずいぶん変わってくるはず。人は一人でも生きて行けるのかもしれないけれど、美久子にも、そういうパートナーがいればどんな風に変わっていくのかなと思いながら演じました。
ラストも、何かが始まる予感を残したかった。最後の美久子の表情で、観ている方に勇気を与えられたらうれしいですね。
撮影=三宅史郎/文藝春秋
『ルール・オブ・リビング~“わたし”の生き方・再起動~』
新宿ピカデリーほか全国公開中
【INTRODUCTION】
本作は、家族や同僚たちに振り回され、心の余裕を失っているバツイチのキャリアウーマンが、突然同居することになってしまったアメリカ人観光客との生活を経て、自分の人生を振り返り、新しい生き方を模索していくストーリー。主人公阿部美久子を、多くの映画やドラマ、海外作品でも活躍する南果歩が演じる。また、本作の監督、脚本を手掛けるグレッグ・デールが、美久子と同居するアメリカ人観光客ヴィンセントを演じ、さらに美久子との再婚を勧められる幼馴染の光一役を椎名桔平が務める。河北麻友子、すみれなどが脇を固め、個性豊かなキャストが集結。本作は、第1回北海道国際映画祭の招待作品として上映。第2回沖縄環太平洋国際映画祭では、特別上映作品として上映された。アメリカの「セドナ国際映画祭」において最優秀コメディ賞を受賞。笑いあり涙ありの心温まる映画として、高い評価を得た。
【STORY】
東京で暮らす49歳のキャリアウーマン・美久子のもとに、ある日突然、アメリカ人バックパッカーのヴィンセントが現れる。娘の紹介で始まった、価値観も文化もまるで違う“3ヵ月間のルームシェア”。ふたりは言葉も通じず、生活の感覚もすれ違うなかで、美久子は共に暮らすための4つのルールを決める。最初は戸惑いと衝突ばかり。でもその違いが、互いの心を少しずつ開いていく。一方、美久子は、東大卒で有能なビジネスマンの光一という幼馴染と付き合っており、再婚には未だ踏み切れずにいるが、姉からは裕福でスペックの高い光一との結婚を強く勧められている。誠実で安定した彼との未来か、心の奥で静かに芽生えはじめた感情か。“ルール通り”に生きてきた彼女は、初めて、“心で選ぶ人生”と向き合うことになる。「ルール・オブ・リビング」それは暮らしのルールであり、生き方のルール。異文化のギャップが、自分自身の声に気づかせてくれたとき、美久子は新しい一歩を踏み出す勇気を見つけていく。これは、違いに戸惑いながらも惹かれ合っていくふたりと、揺れる心の先にある“ほんとうの自分らしさ”を探す、ハートフルコメディ。
出演:南果歩 グレッグ・デール
椎名桔平 河北麻友子 すみれ ジェフリー・ロウ ヴィナイ・ムルティ
監督・脚本:グレッグ・デール/脚本・翻訳:宮本弥生
エグゼクティブプロデューサー:鈴木由布子、ステファン・ウォラル、サイラス・望・セスナ/プロデューサー:ジェフリー・ロウ、ウィルコ・C・ルレンス
/共同プロデューサー:ケネス・ペクター、室屋翔平、アレクサンドリア・ケイ、ショーン・ニコルス/ラインプロデューサー:栄晧/現場ラインプロデューサー:呉村芳健/撮影:フラヴィオ・グスマオ/美術:畠山和久/衣裳:片柳利依子/録音:高田林/助監督:ショーン・レイヤス/編集:目見田健/音楽:ジャスティン・フリーデン/宣伝:HAPPYWOMAN®/宣伝協力:ギグリーボックス/2024年/日本/109分/5.1ch/ビスタ/映倫/制作:マーケットテイラー ミルスピクチャーズ/配給:バリオン/©MirusPictures
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。



