“神隠し”をごまかさない

:『ヤバい実家』に収録されている作品も、すべてはやせさんが実際に聞いたエピソードですよね。それをクダマツさんが執筆している。複雑な構造をしている本だと思いますが、

 はやせさんの話し方が脳内再生できるような一冊だったので、驚きました。

:僕もビックリしました。初めて読んだときに、上手く登場人物の一人としての〈はやせ〉を作っているな、クダマツさんにお願いして良かったなと思いました。

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:オカルト知識とか信仰とか情報も色々と入っていて、とても面白いです。

:『渋谷神域』もかなりの情報が落とし込まれていますよね。前情報がなくても楽しめるように、分かりやすく整理されている。沖縄の石を持ち帰ってきてしまう話も面白かったです。僕も沖縄の久高島に行ったとき地元の人に言われましたよ。「持って帰ったりすると酷いことが起こるからね」と。ミルクティーさんは本作が初めて書いた小説ですよね? いきなり書けるものなのですか?

ミルクティー飲みたいさん

:最初は小説を読むところからスタートしました。本を読むって、動画を作ったり編集したりするのとは脳の使い方が全然違うんです。『渋谷神域』で難しかったのは、主人公の描き方です。本作は、主人公の響一とアシスタントの鼓によるバディものですが、響一は都市伝説に関する専門知識や、勘を持っている。でも、小説の主人公にするには、能力が高すぎるんですよ。

:どういうことですか?

:「シャーロック・ホームズ」シリーズは、視点がワトソンだから面白いと思うんです。

 ホームズが視点者だと、より少ない情報で事件の真相に辿り着いてしまうので、読者が感情移入しづらい。『渋谷神域』では、響一はホームズ的な立ち位置ですが、どうしても響一視点で書きたかったので、すごく悩みました。

:〈神隠し〉の扱い方にも感心しました。〈神隠し〉って、雑に扱われることの多いテーマで、誰かがいなくなって終わり、そのあとどうなったかまでは描かれないことも多いんです。でも、『渋谷神域』では、情報ではなくて生身の人間に起きた事象として扱っているなと。

:僕自身が他の小説を読んでいて、大雑把な設定だったりするとがっかりしちゃうことがあったので、設定はかなり作りこみました。“人が消える”という現象に説得力とかリアリティ、肉体性を持たせるにはどうしたらいいかなって。