怪奇ユニット「都市ボーイズ」として活動し、呪物コレクターとしても知られる、はやせやすひろさん。そんな彼のもとに、ある手鏡がやってきた――いわく、<覗くと死ぬ鏡>。引き取ったが最後、本当にあった恐怖体験。

 8/22発売『ヤバい実家』(はやせやすひろ/クダマツヒロシ)より、第1話を3回に分けてお届けします。

※個人情報保護のため、相談者の氏名は仮名とし、一部脚色してストーリーを設定しています。

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(全3回中の3回目)

 2021年12月13日。

 鏡を開封してから今日で九日目。

 おかしな出来事といえば昨日の電車での一件ぐらいだ。とは言っても僕にとっては相当に恐ろしかった体験である。しかし体調に目立った変化などはみられず、相変わらず僕は自身が運営しているYouTubeチャンネルの編集作業に追われていた。

 作業が一段落し、ふと鏡を見た他の人たちが気になりSNSを開いてみた。そこで適当に引っかかりそうな「呪い」や「鏡」「はやせ」というワードを打ち込み、検索をかけたが、特に目ぼしい話題は見当たらなかった。例の番組はアーカイブも多く見られたようで、総視聴者数はすでに十万人を超えていた。

 村川さんにもメールで連絡を入れてみたが、すぐに「変わりありません。無事です」と返信があった。

 呪いの効力は電波に乗ることなく打ち消えた、ということだろうか。

 それからしばらくして、村川さんから「妙な体験をしたので聞いて欲しい」と連絡があった。早速僕は電話をかけ、詳細を聞かせてもらった。

 その日、村川さんは数人の友人と連れ立って、深夜に車で茨城県にある〈大洗磯前神社〉へ出掛けていたそうだ。肝試しとまではいかないが、これまでもたびたび友人とこういった場所へ出掛けることがあったという。

 現地へ到着した頃にはすでに日を跨ぐような遅い時間になっていた。夜の神社には自分たち以外の人影はもちろんない。簡単に境内を巡り、せっかく遠出をしたのだからと近くの浜辺まで足を伸ばした。深夜のテンションも手伝ってワイワイと騒ぎながら浜辺を散策していたときのことだ。

「そこで友人とお互いの写真を撮り合ってたんです。そのうちの一枚がこれなんですけど……分かりますか?」

 メールに添付されていた写真は夜の浜辺でおどける村川さんを写したものだ。よく見るとその写真の左端に〈黒い影〉のようなものが写り込んでいる。しかし影と呼ぶにはいささか妙だ。

 明らかに実体を持つような濃度のある黒い人型の物体が、村川さんをそっくり真似るような姿勢で写っている。

この写真はイメージです

「このときはこんなに近くにいるのに、まったく気付かなかったんです。暗い浜辺とはいえ、あり得ないですよね……だからなんとなくですけど……これって幽霊とかそういうもので、もっと言うと〈鏡に映る自分以外の誰か〉って、こいつなんじゃないかって」

 村川さんは、この影こそ一族を悩ませてきた〈呪い〉そのものであり、その姿は鏡面やレンズを通すことで初めて可視化できるようになるのではないか、と語った。

「鏡はあくまで媒体ということですか……だとすれば、この影自体は今も『村川家』に憑いている……」

「そういうことになりますよね……はやせさん、どうしたらいいんでしょうか……?」

 電話口の向こうで村川さんのかすれた声が響く。

 気の利いた返事が浮かばない僕は、棚の上段に伏せた例の鏡をじっと見つめることしかできなかった。