怪奇ユニット「都市ボーイズ」として活動し、呪物コレクターとしても知られる、はやせやすひろさん。そんな彼のもとに、ある手鏡がやってきた――いわく、<覗くと死ぬ鏡>。引き取ったが最後、本当にあった恐怖体験。
8/22発売『ヤバい実家』(はやせやすひろ/クダマツヒロシ)より、第1話を3回に分けてお届けします。
※個人情報保護のため、相談者の氏名は仮名とし、一部脚色してストーリーを設定しています。
(全3回中の1回目)
はやせ やすひろ 様
はじめまして。いつもYouTube楽しく拝見しております。
××県××市に住む村川と申します。
〈呪物コレクター〉として活動されているはやせ様に、折り入ってご相談があり連絡致しました。
私の実家にある〈呪いの銅鏡〉についてです。
この銅鏡が原因で、私が知る限り少なくとも二人の親族が亡くなっています。
いずれも鏡面を覗いてから一週間以内に死んでいます。
一人目は曾祖父、二人目は祖父です。祖父は十二年前に蔵で鏡を見つけ、その六日後に死にました。
単刀直入に申し上げます。
はやせ様にこの〈呪いの銅鏡〉を買い取って頂きたいのです。
長くなりますので、もし話を聞いて頂けるのであれば改めて詳しい経緯をお話しします。ご興味がございましたら、ご連絡お願い致します。
村川
2021年11月30日。
僕のもとにこんなメールが届いた。
普通の人であれば〈呪いの銅鏡〉という怪しげなワードや、怪談じみた話に眉をひそめるなりして、質の悪いイタズラだと相手にもしない内容だろう。
しかし、僕のもとには毎月こういった依頼や相談事が多く寄せられる。メールにもある通り、それは僕が〈呪物コレクター〉として活動をしていることが理由だ。
呪物―。古くから世界中に存在し、超自然的な力により所有者や周囲の人間に奇跡や災いをもたらすとされている物を指す。
「呪物」という言葉だけをみると、負の念が込められ、恐ろしい何かを引き寄せる原因になり得る代物だけを指すと考える方も多いだろう。しかし、それら全てが不幸や災いをもたらすものだとは限らない。願いや祈りが込められ、人々に奇跡や幸運をもたらすとされる呪物も多く存在している。呪いとは同時に祈りでもある。
世の中にはそんな呪物たちを好んで蒐集する奇特な人間も確かに存在し、かくいう僕もそのうちの一人だ。とはいえ、ほとんどの方は「良い呪物もあるとはいっても、人知の及ばぬものなのだから恐ろしいことには変わりない。所有するなどもっての外だ」と考えるだろう。誰だって身の安全は保証したい。ではなぜ僕はそのようなものを集めているのか?
僕と呪物の初めての出会いは、2017年に訪れたミャンマーでのことだった。
宿泊していたホテルの、民芸品を取り扱っていた土産物屋で見せられたのが、チーターの牙と人間の顔を象った面があしらわれた「チン」という部族のネックレスだった。ネックレスといえど、かなり大型の物で見た目も相当厳めしい。
ミャンマーでは「呪術信仰」が深く根付いており、国内各地に〈呪術師〉と呼ばれる呪いを専門とする職業も未だ存在している。そういった呪術を生業とする人間によって呪物は生み出されており、このネックレスもその一つなのだという。店主としては軽い気持ちで見せてくれたのだろうが、僕は一目見た瞬間からそのネックレスに魅せられてしまった。今思えば強烈に引き寄せられた、という方が正しいのかもしれない。
どうしてもこのネックレスが欲しい―。
その思いに囚われた僕は、売ってくれないか? と伝えたが、店主は「これは売り物じゃない」と首を振った。そこから僕は懇願し、あらゆる手段を使って店主と交渉を続けた。最終的には店主が半ば憐れむような呆れた様子で折れてくれて、ネックレスは晴れて僕のものになった。これが僕と「呪物」との最初の邂逅である。以来、僕は呪物をどんどん集めるようになり、今や置き場に困るほど大量の呪物に囲まれた生活を送っている。
その甲斐もあって、自身が組んでいる怪奇ユニット「都市ボーイズ」の活動のみならず「呪物コレクター はやせやすひろ」として、YouTubeやメディアに出演する機会も多くなった。そしてそれらの番組を見てくれた人たちが連絡をくれ、オカルトに関連した悩みや自身の体験談などを打ち明けてくれる。その中には今回のような「いわくつきの品を引き取って欲しい」という要望も少なくない。
捨てるのは恐ろしいから誰かに譲渡したい、はやせならば引き取ってくれるのではないだろうか? そんな切実な思いがそこにはある。しかし、僕のほうもその全てを手当たり次第に引き取るわけではない。相談を受けると僕はまず入念な取材をすることを心がけている。一口に「いわくつき」といっても、その品々にどんな経緯があってそう呼ばれるように至ったのかは千差万別だ。そのストーリーを知り、所有者の思いを掬い上げたうえで、迎え入れるべきかどうかを判断する。
もちろん取材時に所有者から語られる「恐ろしい出来事」や「不幸な出来事」の全てが呪物に原因があるとは考えていない。こじつけのようなエピソードも少なからず存在する。そんなときは所有者に「思い込みである可能性」をはっきりと伝え、場合によっては引き取りを断ることもある。
しかし、客観的にみて「怪異」と呼ばれるものが確かにそこに発生していて、なおかつ体験談とともに僕にそれを打ち明け、いわくつきの品を受け渡すことで、現所有者が抱えた不安や恐怖心が少しでも和らぐのであれば、喜んで迎え入れている。
こう書いてしまうと、まるで僕が依頼者の悩みをサクッと解決しているように思えるかもしれないが、僕自身は霊感と呼ばれるような特別な力を持っているわけではない。だからあくまで取材という名目で、耳を傾けることしかできない。そうして解決策を一緒に考え、必要に応じて知り合いの神社や寺を紹介することはあれど、僕自身が根本的な解決をするわけではないのだ。それでもいいですか? と確認した上で、なおも話を聞いて欲しいという方とは真摯に向き合うように努めている。
