冒頭のメールをくれた村川さんも他の依頼者と同じように、身の回りで起こった不幸な出来事は〈呪いの銅鏡〉によってもたらされたと考え、大きな不安を抱えているように見えた。それを今、僕に打ち明けようとしてくれているのだ。

 僕はすぐに「是非、詳しく話を聞かせて欲しい」という旨を返信した。

 村川さんの実家は○○県××市にある。

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 その歴史は古く、江戸時代まで遡る。その地で商いに成功した村川家は、一帯に野球場ほどの広大な土地を手に入れ財を築いたという。そんな村川さんの一族には、歴代の家長にしか伝えられない不可解な言い伝えがあった。

〈鏡を見るな。見ると自分以外の誰かが映り込んで死ぬ〉

 これがいつ頃から伝わっているのかは定かではない。その謂れも理由も一切が不明である。この〈鏡〉が不特定多数の鏡を指すものなのか、ある特定の鏡を指すものなのかすらも分かってはいなかったが、長男である村川さんは物心ついた頃から「曾祖父さんは鏡が原因で死んだんだ。だから鏡は覗くな」と父親に何度も言い聞かせられていた。

 とはいえ村川さん自身はこんなものは良くある昔話、下らない迷信だろうと疑って取り合わなかった。

 しかし十二年前、祖父が亡くなった際にこれがただの迷信ではないと思い知ることになる。

「蔵で〈鏡〉を見つけた」

 家族にそう漏らした六日後に祖父は死んだ。

 祖父が亡くなったあと、祖父が見つけたという鏡を必死で探したがどこにも見当たらなかったという。以来、家族は気味悪がって蔵に寄りつかなくなった。

 そして先日。村川さんは、解体工事の決まった蔵の中で十二年前から行方が分からなくなっていた例の鏡を偶然見つけてしまった。

 祖父が蔵から持ち出したはずの鏡。

 一族の家長に伝わる〈覗くと死ぬ鏡〉―。

 どこかの霊能力者に依頼して引き取ってもらうか、お祓いをしてもらうべきだろうか。「覗き込めば死んでしまう」など、荒唐無稽であまりにも馬鹿げている。頭ではそう理解しているつもりだった。どう考えてもあり得ない。

 しかし、本当にそうなのだろうか?

 一度心に浮かび上がった不安は、まるで淀みのように胸に染み入ってくる。鏡を蔵で見つけた家長が現に数日内に死んでいる。それも二人も。

 そして祖父の死後、どこを探しても見つけられなかった鏡が今、自分の目の前にある。まるで自ら意思を持って現れたように。

 そうだ。どうせ蔵を壊すのなら鏡も一緒に埋めてしまえばいい。解体工事の際に地中深くに埋めてしまえば。けれど、万が一鏡が戻ってくるようなことになればそれこそ恐ろしい。一刻も早くこの鏡を手放したい―。

 困り果てた村川さんがある日YouTubeを眺めていると、画面に映った男が声高に叫んでいた。

『―世界中の呪物よ! 全て俺のところに来い‼』