怪奇ユニット「都市ボーイズ」として活動し、呪物コレクターとしても知られる、はやせやすひろさん。そんな彼のもとに、ある手鏡がやってきた――いわく、<覗くと死ぬ鏡>。引き取ったが最後、本当にあった恐怖体験。

 8/22発売『ヤバい実家』(はやせやすひろ/クダマツヒロシ)より、第1話を3回に分けてお届けします。

※個人情報保護のため、相談者の氏名は仮名とし、一部脚色してストーリーを設定しています。

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(全3回中の2回目)

 僕は数多くの呪物たちと共に生活をしているが、日常生活においてそれらの効力が僕の身に発動したことはほとんどない。周囲の人間、例えば僕の奥さんや「都市ボーイズ」の相方である岸本さんには、過去に呪物による影響、障りのようなことも少なからずあったのだが、所有者である僕自身に影響が出たことは、実はほとんどない。

 以前、僕はある霊能力者に霊視をしてもらったことがある。

 あなた、真っ黒よ―。

 霊視を始めて早々、驚いた顔をした霊能力者が僕にそう告げた。

 彼女いわく、僕の体にはあまりにたくさんの黒い念のようなものが渦巻いているのだという。それらが僕の体を「器」のように扱っているため、外部からのあらゆる悪い影響を打ち消している。ようするに僕は呪物に取り込まれた故、本来災いをもたらす可能性のある呪物によって守られるという極めて特異な環境にいるそうだ。

 これほど禍々しい人間は見たことがない、という呪物蒐集家としては最上級の誉め言葉を貰った僕は「お祓いしてあげるから」という霊能力者の有難い申し出を丁重にお断りし、その場をあとにした。

はやせやすひろさん

「―これは迷惑な話かもしれないんですけど」と前置きをして村川さんが口を開く。

「本当は知りたいんです。これがホンモノの呪いだったとして、僕の一族にだけ向けられたものなのか、それとも不特定多数にかけられるような呪いなのか。はやせさんなら何か分かるかもしれない、って」

 知りたい―。その気持ちは痛いほど分かる。いつだってその欲求こそが僕を突き動かしているのだから。

 一族を滅ぼす呪いの鏡か、無差別に人を呪う鏡か。

「数日後に生放送のテレビ番組があります。そこで鏡を開封しましょう。村川さんさえ良ければ」

「テレビですか……? 私は構いませんが……」

 村川さんの顔に不安の色が浮かぶ。

 確かに不安が無い訳ではないが、鏡面を見るのは僕だけでいい。他の出演者や視聴者には呪物を開封するという場に立ち会ってもらうだけだ。もちろん見たいという人がいれば見てもらっても構わない。

「はやせさん、渡しておいて今更ですが……本当に見るんですか?」

「―大丈夫です。死なないんで、僕」

 確証はない。しかし自信はある。

 僕は常々こう考えている。死の恐怖より好奇心が勝っている間は、とにかく自分の感覚に従おう、と。

 意地やプライドなどでは決してない。まごうことなき探求心ゆえである。

 店をあとにし、来たときと同じようにタクシーに乗り込み駅へ向かう。

「―それじゃあ、ここで。今日はありがとうございました。鏡、大切にします」

「こちらこそ遠いところまでわざわざ来て頂き、ありがとうございました」

 礼を告げて改札へ向かう。

 改札を抜け振り返ると、まだロータリーには村川さんを乗せたタクシーが停まっていた。僕は改札から浅い会釈をしたが、逆光となった夕日のせいでそれが村川さんまで届いたのかは分からなかった。